日常編 | ナノ
1

それは、俺が今よりまだまだ小さく、体も弱かった頃の話。



人とは違う真っ白な肌、真っ白な髪、そして真っ赤な瞳。

俺はアルビノという病気だ。
だから日光に満足に当たる事もできず、学校に行くときは親が必ず付いてきた。家にいても毎日俺に肌の薬を塗って。

遊び相手は専らツナ一人だけだった。

ツナと遊ぶのは楽しかった。俺より健康な癖に俺より弱っちいツナ。でも俺の為に、俺でもできる遊びを選んでくれた優しいツナ。

でも、だから、俺は「外」が知りたくなった。









土曜日。

母さんがツナを俺に任せて買い物に行った。俺達二人共一人で遊びに行く年齢ではあるが、俺は保護者同伴でないとまだ外は危ないし、今日はツナが風邪気味な為に二人仲良くお留守番である。
それを見計らい、ツナにはトイレに行くと言ってこっそり家を抜け出した。

いつもの日焼け止めはいつも以上に塗ったし、今は冬だから長袖でも変じゃない。
直射日光を避ける為に専用のサングラスを掛けて日傘も差して、俺は歩いた。

道なんか知らない。本能のまま。一応知識は人一倍あるから、標識の意味も分かる。文字はあまり見えないが形である程度判別可能だ。
初めて一人で外へ出た事に気分は高揚した。

行き止まりに差し掛かり上を見上げると大きな建物があった。塀を伝い歩くと門が見えてくる。俺はそこに文字を見つけた。店の看板のような大きさで、近くにある為なんとか読むことができる。

「……なみもり中学校?」

並盛とはここの地名だったか。


いつだったか両親が話していた、「銀時はちゃんと中学校に通えるのか」と。
中学では容姿から虐められるかもしれないから、行事にも中々参加できないだろうから。
小学校では半分以上の時間を保健室で過ごしていたし、確かにそうなるのかもしれない。アルビノが普通学校に通うのも珍しい訳ではないらしいし、俺は健康な方だと思うが、両親としては不安を感じずにはいられないのだろう。

俺はごくりと唾を飲むとその敷地に足を踏み入れた。



建物の中からは色んな音が溢れて、休日だというのにグラウンドを駆け回る人が沢山いる。大きな背丈に真っ黒な髪を揺らして、健康的に焼けた肌が羨ましい。
じっと見ているとその中の一人が俺に気付いたようだった。俺を指差し隣の人物に何か話している。

いたたまれなくなり、その場を立ち去った。




思ったよりも中学というものは息が詰まるようだ。
これ以上いるのもあまり意味がない、と学校を出ようとしたが。

「なんだ、こいつ?」

「変な奴だな、こんな晴れた日に傘なんか差してら」

制服を着た大柄な男達に囲まれる。
人目を避けて校舎裏なんか通らなきゃ良かった、と今更な後悔がじわじわと心を占めていった。
歳の割りに小柄な俺とこいつらでは力の差が歴然としている。

喉の奥がひく、と変な音を出した。

特にでかい男がへへ、と気持ち悪い声を出しながら俺に近寄る。

「なあ、何してんだ?」

顔なんか隠しちゃって、男か女かもわからないな。

そのセリフに周りの奴等が笑って、男は俺に手を伸ばしてきた。

「――っ」

逃げようとすると手首を掴まれ日傘が落ちる。気を取られている隙にサングラスも奪われた。
サングラスを取られるのは拙い。視界が一気に光で満たされて、辛うじて見えていたものが見えなくなった。

「うわ、真っ白じゃん。気持ち悪ぃ」

「男?女?」

「わっかんねーわ」

「変な奴だな」

「はは、お前らロリコンかよ」

笑い声が耳の中をぐるぐると流れている。


気持ち悪い。

変な奴。


「丁度いいや、さっき雲雀の野郎にやられてイライラしてんだ。こいつ殴って鬱憤晴らそうぜ」

「お、名案」

「や…やだっ、やめろ!!」

抵抗しても逃げられない。
男は俺を殴った。

「――っ」

「あーもー、うっせーサンドバッグだな」

「まぁ痛がってくれた方が楽しいし」

「そうだよなー」

服を掴まれた拍子に首元がビリビリと破かれる。

背中を足で蹴り飛ばされる。


髪を引っ張られる。





――殺 さ れ る ?







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