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「元気出せよ、ツナ」
頬を腫らしたツナを慰める。
思ったより強い力だったのか時間の経った今でも痛々しく、ツナは痛みとショックで沈んでいた。
まあ、確かに名前も知らない女にいきなり平手打ちはねぇよな。
事の起こりは朝。ツナまで寝坊したせいで遅れかけた為(俺はどうでも良かったが)急いで学校に向かっていた。
その途中にリボーンがいたのだが、どうやら誰かと話している様子だった。
訝しく思いながら通り過ぎようとしたが叶わず。ツナはいきなり平手打ちを食らったのだ。
原因はどうやらリボーンらしく、その女は「こんなキュートな赤ちゃんをー!!」と憤りつつ、ツナの話を遮り今度はグーの形に握った手を振り上げた。
――流石にそれは俺が阻止したが。
手首を掴まれ俺を見た女は一瞬たじろぎながらも最後にツナをキッと睨み付け、目標を失った拳を振り回しながら去っていったのだ。
(見た目)赤ん坊の言葉を曲解し、こちらの話も聞かず初対面の人間にいきなり暴力を奮うとは、一体どんな猛獣に育てられたんだか。親の顔が見てみたい。
ただ、話しだけ聞けば女が悪いように聞こえるが、リボーンにも原因があるだろう。いや、あの子も十分アレだが。何せ赤ん坊というのが俺達よりも一枚どころか軽く百枚は上手のリボーンなのだ、あんな性格の少女に下手な言葉を掛ける筈がない。
「しなきゃいけない、なんざまるでツナがお前を引き留めてるみたいじゃねぇか」
リボーンに言うとこいつはにやりと笑っただけで口を閉ざしたまま。
確信犯か。
こんな夜中、家の塀に隠れてる人影があるが、もしやこれも……いやいや。
翌日、登校途中の橋に差し掛かると、正面から変な物体が向かってきた。
……いやいや、この時代に鎧とかありえねぇだろ。何と戦うつもりだよ。
「つかアレ、昨日の女じゃね?」
「んなー!?」
鎧を着ているっぽいのは昨日ツナの頬に強烈な一撃を与えた奴――ハル、だっけ?――だった。
出で立ちに似合わず(いや、ある意味合ってるのか?)神妙な表情を浮かべるそいつは俺達――というかツナの前で止まった。
「……あなたがリボーンちゃんの言うマフィアのボスなら、それなりに強い筈ですよね」
リボーンちゃんを解放する為に、ハルは決闘を申し込みます!
そう言って鎧はガシンガシンと音を立ててツナに向かう。動き辛いだろうにご苦労だな。
だが武器を持ち出されちゃこっちも黙ってはいられねぇよ。
俺はツナ目掛け降り下ろされたゴルフクラブを、持っていた傘で防ぐべく前に出た――――。
「ご、獄寺君!」
「果てろ!!」
声が聞こえ、殆ど反射的に鎧から遠ざかり、傘を広げる。
間一髪。俺の肌をダイナマイトが掠めたが避けるのは成功したようだ。
盾となった傘がボロボロだけど。よく耐えたな、後で供養してやるから待ってろ。
だが俺は別の人間の存在を忘れていた。
「あれ?ドカーンってやつですね〜」
自分に向かって飛んでくるダイナマイトを見ながら言うハルは、危機感が無いのか否か。
瞬間、爆風がここまで伝わり俺は後退った。
やはり反応出来ずにハルは爆発に巻き込まれたらしい。
「あぁっ!!落ちちゃったよ!?」
「これでもう大丈夫です!」
焦るツナと満足気な獄寺の対比が面白いが今はそう言ってられないだろう。
川から甲高い悲鳴が聞こえる。あの鎧じゃ自力で泳ぐのは無理だろうが、獄寺は確実に行かないだろうしツナはカナヅチだしリボーンはリボーンだし。俺に至っては泳いだ事ねぇし。
俺役立たずじゃねえか。
しかし、外見的に一番不可能なリボーンの単調な声がした。
「助けてやるぞ」
「ダメです!この川はリボーンちゃんが泳げるような…っ」
川の流れは思ったよりも速いようだ。
必死にもがくハルを横目に、リボーンはツナに何かを向けた。
「お前がやれ」
いわずもがな、何かとは死ぬ気になれるアレである。
リボーンが引金を引いた。
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