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今日は女子が調理実習らしく、つくったものを男子にお裾分けという大変素晴らしいイベントが始まろうとしている。
だが悲しいかな、女子からの人気度が明確に表れるこれでは山本や獄寺ばかりに集まってしまい、つい最近までサボり魔だった俺に渡す奴はいないだろう。
そう思っていたのだが。
「えっと…はい、沢田君」
「山本君が沢田君は甘いもの好きって言ってたからさ、よかったら」
山本……!!
奴のお陰か否か、俺の元には結構な量のケーキが積み重ねられた。勿論山本や獄寺も大量に貰っていた。
貰い損ね、お情けで分けて貰えたという体の少数の男子が憐れに見えてくる、自分が勝ち組となったからだな、ハハハハッ!!
有頂天になり心中で高らかに笑い声を上げていると、不意にツナの叫びが俺の鼓膜を震わせた。
反射的に声を辿って頭を捻ると、その瞬間俺の腕から重みが消えた。
「――ツナァァァァァ!!!」
今更怒った所でもう遅い。気が付いた時には全てがツナの胃袋の中だった。
今回はツナ……赦さん。
ゴゴゴ…と効果音を背負いツナへ歩み寄る。
パンツ一丁でぼけっと佇むそいつの顔面には勿論拳をロックオン。射程圏内で思いっきり振りかぶった。
「ちくしょー…」
女子の手作りケーキが食べられなかったショックで部屋に引きこもる。まぁどっちにしろ休みだし。
「銀時ぃ、遊ぼーよ〜。ランボさんすっごくヒマなんだもんね〜」
「うるへー、俺は今ブロークンハートなんですぅ」
子供特有の甘ったるい喋り方で言うランボを突っぱねる。
ランボはきょとんとしていたが、いきなり納得したように笑顔になった。
「ランボさん分かっちゃったもんね!銀時もリボーンにやられたんだろ!」
もうそれでいいよ、そういう事にしておけ。
きっとこいつには分からない痛みなんだ。十年後顔だけは整うこいつには。
ランボは仲間を見つけ余程嬉しいのかムフフ〜と気色悪い笑みを溢しながらアフロを漁りだした。
「そんな時はコレ!リボーンをビリビリでびっくりにさせるんだもんね!!」
そう言ってスタンガンを取り出す。
いや、そんなもんまでアフロに入れるなよ。
つかこいつ、10年バズーカも入れてなかったか?あんなでかいモンどこに収まってんだよ。
そもそも俺にはリボーンを倒そうなんつー野望など無い。攻撃すればこちらが痛い思いをするのを分かっているので対リボーン用の武器は全く必要の無いものだ。
「それはお前がリボーンをビリビリにしたい時に使いなさいっ。俺は別にいらないから今はその爆発頭に仕舞っとけ」
「そぅお?後からちょーだいって言っても遅いんだからね!」
ランボはアフロの中にスタンガンを戻した。
物騒な物が視界から消え、ほっと胸を撫で下ろすと今度は最近の騒動の元凶が音を立ててやって来た。
慌ただしく飛び込んで来たツナは息を荒らげている。いつものツナらしくない、10年バズーカを撃ってくれなんて。
当然の如くランボは拒否をする。言い訳は苦しいものだが。
興味を無くし寝転がったランボに今度は忙しなくきょろきょろしているかと思えば、窓に視線を固定、直ぐ様部屋から転がるように出ていった。
「リボーン」
軽くランボをどついてくれないかな、と言うツナ。
本当どうしたんだ、あんなこと言う奴じゃないのに。
案の定リボーンからは却下される。
「俺は格下は相手にしねーんだ」
リボーンの台詞が聞こえてくると、ランボはぴょんと跳ね起き窓から身を乗り出した。手では先程のスタンガンが火花を散らす。
「ガハハハハ!!そー言ってられるのも今の内だぞリボーン!
ランボさんは勇気を出してこの二階から飛び降りちゃうんもんね!!」
宣言通り躊躇いも無く飛び降りた。
しかしランボの叫びが聞こえて窓から外を見ると、電源の入ったスタンガンを持ったままプールに飛び込んだ為に思いっきり感電中の牛の姿が目に入った。焼き加減はレアか?あんな肉は食いたくない。
ランボは泣き出すと10年バズーカを取り出し、自分に向け撃った。
もくもくと立ち上る煙が霧散すると徐々に現れる輪郭は確かに十年後の奴だ。
「やれやれ。何故俺に水が滴ってるんだ?」
己の置かれた状況が理解できてないらしく暢気にプールに浸かっている。まあ当たり前だろう、何の前触れも無く十年前に呼び出されちゃ。
「……ロメオ!生きてたのね!」
不意に震える声が聞こえて再び下を眺める。上からは長髪のスタイル抜群な女性がランボに駆け寄っているのがよく見えた。
何か知らんがランボは爆発しろ。
しかし。
「ポイズンクッキングU――!!」
女性の発した不可解極まりない言葉と共にランボはプールに倒れ込んだ。
顔中には原型を留めていない暗黒物質が。
………………なんだろう、今の既視感は。お腹痛くなる、逆らえなくなる。
脳裏にポニーテールの少女の微笑みを浮かべる姿が掠めた。
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