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最近はリボーンの所為で毎日のように学校に通う羽目になっている。
だがまあ今までサボり続けてきた俺には毎朝起床というのは辛いもので。
今日はツナに置いていかれた。
ツナだって遅刻常連だが、如何せん性格が真面目寄りなのだ、朝きちんと起きられたら間に合うように学校に行くのだろう。俺を置いて。
しかもサボろうとすればリボーンからの制裁という名の虐殺が行われるので重い体を引き摺って家から出なければいけない。
授業の途中で教室に入ってやれば全員が一斉に振り向くもののすぐ逸らされる。
なんだよもう。
休み時間、形だけでも不貞腐れてみれば、肩をぽんと叩かれた。
「よっ」
「あー……?やま、山本?」
「そうそう!覚えてくれてたのな、良かった!」
そう言って一ミリの屈託も無くにっこり笑うのは、確かクラスの人気者に位置付けられる野球少年山本武だった筈だ。
そんな奴が俺に何の用だろうか。
「ほら、次って体育で野球だろ?」
「で?」
「俺とチーム組もうぜ!」
……は?
いや、別に構わないが何故俺なのか。
「だってお前、中々学校来ないからさ。これを期に仲良くしようぜ!」
こいつに暗い現実なんて存在しないと言われれば納得できてしまいそうだ。某海賊王や某落ちこぼれ忍者の如く性格の明るい、少年誌の主人公のような男である。山本はそんな能天気な笑顔を俺に振り撒いたので、仕方無く差し出された手を握り返した。
案の定ハブられたツナも交え試合は開始した。
野球の知識なんて皆無な俺は、山本を見よう見まねでバットを振った。すると面白い位ボールは飛んでいく。
所謂ホームランらしい。
ホームラン後の対応なんて知らない俺はただぼけっと立ち尽くしていると、山本が心底嬉しそうに俺の肩に腕を回した。
「銀時お前すげーのな!!ほんとに初めてなのかよ?」
適当に振っただけだったが、山本のお気に召したらしい。誉められた事が何だかむず痒くて思わず照れ笑いすると、山本が何故か驚いた顔をした。
ついでにクラスの奴も。
ハテナマークを浮かべているとチームの奴等が集まってくる。
俺の事を凄いとか、意外とか。
誉められ誉められ、余りに恥ずかしすぎて赤面して、それをまた皆に笑われた。
なんというか。
「……むず痒い」
「ツナ、元気出せよ」
「うぅ……」
授業も終わり、ツナはいつの間にかトンボかけを命じられたらしい。俺も手伝うつもりだ、どうせ授業出なくても平気だし。
ツナはというと、負けたのが全て自分の責任だとでも言い出しそうな顔をしている。
実質そうなんだろうが。
だが俺はそこをフォローしてやるのがチームメイトの役割だと思う訳で、それで負けたんならフォローを上回る下手っぷりを見せつけてくれやがったツナには救いは無いな、うん……あれ、ツナを慰めてるつもりがいつの間にか貶めている気がする。
どう慰めればいいんだろう。そう思案しているとどこからか声が飛んできた。
「助っ人とーじょーっ」
声を頼りに方向を目で辿ると、そこには本日の功労者山本の笑顔があった。
山本の助けによりなんとまあ早く片が付き、俺は二人の目を掻い潜って屋上で寝ることにした。
しかもここは、万が一屋上に誰かが来たとしても中々ばれない程度に隠れた場所で丁度良く日陰になっている。絶好のサボりスポットだった。
目を瞑りながら、夢見心地に思い返すのは今日の出来事だ。学校を楽しいと思うことはあまりなかったが、今日は結構楽しかったかもしれない。
山本武。暖かい奴。
暖かい――――。
起きた時には今が何時頃か分からなくなっていた。空の色からして夕方、もうすぐ夜になるだろうか。これは母さんに怒られるかもしれない。
重い瞼を擦りつつむくりと起き上がる。何となくフェンスへ向かうと、グラウンドの様子が良く見えた。
流石に部活も終わったらしく辺りは静寂に包まれていたが、よく見ると人影がひとつ、何をするでもなく佇んでいた。
一気に目が醒める。
俺は飛び起きると階段をかけ降りた。
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