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……あれ?
おかしいな、今日は獄寺とかいう奴を見るのに夢中で(そういう意味ではない)眠気なんぞ無かった筈だが、どうやら眠っていたらしい。
未だ痺れる体を無理矢理起こすと固まった筋肉を解す。腕を上げてゆっくり体を伸ばすと、肩がボキボキと音を立てた。
そして辺りを見渡すと、
「ツナがいねぇ」
ついでに獄寺もいなくなってやがる。
唐突に嫌な予感が全身を駆け巡った。
席を立つとどこからか爆破音が聞こえる。
その音を聞き嫌な予感が増して、そこに向かって走りだした。
「うわ」
俺が駆け付けた時、既に戦いは始まっていたらしい、獄寺の投げる爆弾――ダイナマイトだろうか――から逃げ惑うツナが視界に飛び込んできた。そのすぐ近くで静観するリボーンの姿も見える。
「銀じゃねーか」
無言でリボーンの隣に立つとこいつは僅かに感心した表情を浮かべた。
「一応三日は起きれない麻酔を撃ったんだがな。よく半日で起きたもんだ」
「やっぱりか。もし起きれなかったらどうしてくれんだコノヤロー」
「そん時はツナに回収させるから安心しろ」
僅か二話でなんだが……最早何も言うまい。
リボーンのセリフは適当に受け流す事にしてツナへ野次を飛ばす。
「ツナぁ、勝たねーと夕飯抜きにしてくれって母さんに言うぞー」
「え、ちょ、銀!?……って――ぅわあぁぁ!!」
あ、俺に気を取られた隙に獄寺が爆撃しやがった。
ごめんツナ、文句は拳にして獄寺にぶつけてくれ。
当の爆弾魔である獄寺は俺を見て相当驚いたのだろう、ここからでも分かる位大袈裟に目を丸くした。
手も疎かになり、ツナが安堵に息を吐いたのが分かった。
「おい、獄寺。続けろ」
しびれを切らしたリボーンがそう言い、呆けていた獄寺は再びダイナマイトを構える。
「なっ、またー!?」
再び逃げ惑うツナ。獄寺はそこはかとなくかったるそうである。キレ易い十代に火器を持たせるとは何事か。
と、唐突にリボーンは帽子の上のカメレオンを指に乗せた。カメレオンは形を変え、銃の形になる。
「嫌なら、死ぬ気で戦え」
なんでカメレオンが変形するんだよ、なんてツッコミをする暇もなく。
現代日本ではまず聞こえることのない乾いた銃声が響いた。
「ちょ――ツナ!?」
こいつ何してくれちゃってんのぉぉ!!!
あり得ねーだろこいつ!
味方なんじゃねーのか!
リボーンに向かって俺の頭で考えつく限りの罵倒を浴びせると、奴はあろうことかにやりと笑いやがった。
「まあ見てろ。おもしれーモンが見れるぞ」
言った刹那。
「リッボーン(復活)!!!!」
「ええぇえぇぇぇ!!」
何でパンツ一丁なんだ!!
「死ぬ気で消火活動!!」
ツナはその姿のままなんと素手で火を消していった。お陰で掌が焼けただれている。
普段の、自分の爪で皮膚を擦るだけで大騒ぎするような軟弱さが見る影もない。
獄寺が新たに投げるものも直ぐ様鎮火。
それに苛立ったらしい、獄寺は今までの三倍程度のダイナマイトを取り出した。
しかし、
「っ、しまった!」
持ちきれなかったらしい、獄寺の手から次々とダイナマイトが零れ落ちていく。
ここで補足。ツッコミ不在の場合俺がツッコミに回る確率が高い。ツナ不在の場合のツッコミ要因も補充が必要である。
とりあえず今、何をツッコめばいいのだろうか。
「消す!」
「!」
「消す消す消す消す消すーー!!」
……もうツッコミは放棄しようと思う。
叫びと共に、ツナは獄寺の周りに落ちた火まで消していった。
なんという人助け精神。本当に俺と血が繋がっているのだろうか。いや取り上げるべくはそこではないとは分かっているが。
全ての火が消えると、
「はぁ〜、なんとか助かった……」
ツナの額から炎が消え、いつものへたれた顔になる。俺はツナの元へ駆け寄ろうとしたが、それはまたしてもリボーンに遮られた。
訝しく思いリボーンを見ると顎でツナの方をしゃくったので視線の先を変更する。すると。
「御見逸れしました!」
あの獄寺が土下座していた。
聞けばただツナを試そうとしていただけらしく、自らの命を救ったツナに感銘を受けたらしい。行動の源が自分本意な奴だ。
……とにかく、反省してんならどうでもいい。今俺がすべき事は。
「ツゥゥナァァ君」
不良っぽい三年の元へ行こうとする獄寺を止めるツナに近づく。
「ぎ、銀!」
「…………制服どうすんだこらぁぁ!!!」
「怒るとこそっちー!?」
次いでする爆破音。
「ちょ、獄寺君!」
「待てツナ、話は終わってねーぞ」
「あっ、テメー!十代目に何してやがる!!」
「二人共落ち着いて――あぁもう!聞いてないし!」
獄寺と殺り合いながらも俺はボケ要員の増加に内心喜んだのだった。めでたしめでたし。
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