日常編 | ナノ
2

所変わってバッティングセンター。まさかの野球特訓に相応しい場所である。山本のことだからどこでやっても勘違いするだろうが、事情を知らなければ俺も野球の特訓だと思ったかもしれない。
山本は既に準備運動を行っていた。リボーンを普通の子供だと思っている山本は恐らく「野球の特訓ごっこ」だとでも思っているのだろうに、一切手を抜く素振りは見えない。子供の遊びに全力で付き合ってくれる山本は将来良い父親になるだろう。

「さーて、何すっか?」

十分に身体が温まった山本が問うと、リボーンは普通より若干小さめのボールを取り出した。

「まずはピッチングだ、あの柱の印の所めがけて投げてみろ」

リボーンは山本にボールを渡す。興味深そうにボールを弄る山本に違和感はない。一見野球の特訓そのものだ。

「ふ、普通だ……」

隣でツナが呟く。今までの悲劇を経験してたらそりゃ驚くよな、逆に。
山本はボールを手に馴染ませ終えたのか、既に投げるフォームを取っていた。眼孔が一気に鋭くなり、見据える先は印一点。肉眼で捉えることが難しい速度で腕が振るわれたかと思えば、次の瞬間、柱は大きな音を立てて粉砕していた。

下に転がり落ちるボールからは棘が生えている。

「こいつがボンゴレ企画開発部に発注していた岩をも砕く“投の武器”マイクロハンマーだ 」

「んな――っ!?お前山本に武器持たせよーとしてんの――!?!?」

ツナが叫ぶ。リボーンはわずかに口角を持ち上げた。

「微妙な表情で表現するな!」

「おいツナ、よく見てみろって」

「えっ?」

リボーンを叱るツナに、山本は呼び掛ける。

「あの柱は発泡スチロールだって。あーやってオレに自信を持たせようとしてくれてんのかもな」

「……いや、山本君、君ね」

「次いくぞ」

「よーし、たのむぜトレーナー」


俺が山本へ抗議しようとした瞬間リボーンが遮る。山本はにっこり笑ってリボーンの元へ行ってしまった。
ツナが破壊された柱に近づいて欠片を拾ったので後ろから除き込むと、やはりどう見ても硬質なコンクリートそのものだった。

「山本……」

これから理科の勉強いっぱいさせよう、と山本の将来を案じて勝手に決意した。

「さて、次の特訓だが」

リボーンが一旦言葉を切ると、どこか遠くから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。音の方向を確認すると、そこにはきらきらした笑顔の獄寺がいた。

「リボーンさんに聞いたんス!とうとう山本クビっスか?」

どうやら誤った情報を教えられていたらしい。本当におめでたくて可哀想なやつだ。期待に胸を膨らませている獄寺に、リボーンが山本に武器を持たせようとしていることを伝えれば、やはり愕然としてへなへなと崩れ落ちた。

「……山本は生えてる草を投げる攻撃とかいいと思います」

「陰険か」

「うるせえ銀時!俺の気持ちがお前に分かるか!!」

喧しい獄寺を軽くいなしているうちにリボーンは準備を整えたようだった。次の武器はこいつだ、と山本へ渡したものは、見た感じ普通の、山本に最も似合う道具だ。

「へー、トレーニング用のバットかー。お、ウェイト入ってら、けっこう重いな」

嬉しそうにバットを検分する山本。

「グリップの先をのぞいてみろ」

……やはり普通のバットではないらしい。リボーンがそう言うと、山本は素直に覗く。

「なんだ望遠鏡か―」

「いや何でだよ」

「さすがリボーンさん、山本にぴったりだ! 」

「どうやって戦うんだよ!」

山本の気の抜けた声に三者三様のリアクションをし、楽しげに望遠鏡を覗く山本を煽っていると、いきなり鋭い音が耳を掠めた。

「なっ!?」

「500m先から狙撃してもらったんだぞ」

「え!?」

どうしてそうなった。
リボーン曰く、500m先にあるビルの上で、ディーノ達が狙撃しているらしい。リボーンは山本を狙撃したがる性癖でも持っているのか。

「これが次のトレーニングだ、とんでくる弾をかわすんだぞ」

「オッケー、動体視力と反射神経をきたえるんだな」

間違ってはいない。間違ってはいないが、何故狙撃されても平然としていられるのか。
とにかく山本が五体満足で帰ってこられますようにと祈っていると、リボーンが更に爆弾を落とした。

「ついでにツナと銀もやれよ」

言われた瞬間、俺は全力ダッシュした。

「なっ銀!?おいリボーン、何言ってんだよ!」

「まーまー、せっかく用意してくれたんだ、遊んでこーぜ」

遊びだと思っている山本はツナを強引に引っ張り出す。悪いなツナ、お前の犠牲は忘れな

「今回は逃がさねーぞ」

「うおあああ!?!?」

ツナが捕まったことで安心して減速していたのが悪かったのか。リボーンの謎秘密道具により俺は縛られていた。べしゃっと無様に地に倒れ込むのを、リボーンが赤ん坊とは思えない力で引きずる。
山本のいる所に到着すると、山本は呑気に「大丈夫かー」と言いながら戒めをほどいてくれた。リボーン許さん。

「銀、お前はこれを使え」

「はあ?……傘?」

渡されたのは、普段俺が使っている日傘……のようなものだった。日傘にしては重すぎるもので、パッと見でも張ってある布が特別製であることが伺えた。
しかし、バットと違って元々振るうものでもない。どうすべきかと思案しているうちに、ついに地獄のトレーニングは始まってしまった。

容赦なく降ってくる銃弾は、自分でもびっくりなことに何とか避けられそうなものだった。ただし自分以外は気にすることができない。山本が望遠鏡で敵を見ながらツナを誘導してくれているのが有り難い。

順調に避けていると、急にとんでもなくでかい爆発が至近距離で起こった。
十中八九獄寺だ。また学習もせずダイナマイトを投げているのだ。今回は自分の危機でもあるため、獄寺を全力で睨みつける。

山本はいよいよダイナマイトと銃弾を自分でも避けながらツナを守るという人間離れした動きをするようになっていった。爆風で視界が遮られているというのに驚異の身体機能だ。

「さすがだな、この爆風の中遠方からの弾丸の弾速に慣れちまった」

姿は見えない。が、どこからかリボーンの声が聞こえる。嫌な予感しかしない。どこにいるんだ。

「仕上げだ」

視界がようやく晴れた。ようやく辺りを見回せるようになって直ぐに見つけたリボーンは既に銃を二丁取り出していた。
銃口は山本とーー俺に向けられている。

「死ね」

カチャリと、この喧騒の中で聞き取れるわけがない音が聞こえた。リボーンが引き金を引く音、その後の弾道が全て一瞬にして頭の中でシュミレートされる。心臓を正確に捉えたそれは、抵抗しなければ確実に当たる。
そう、弾くのだ。


キイン、と甲高い金属音が同時に鳴り響く。山本と俺は、二人とも無事に立っていた。二人、顔を見合わせてから、お互いの手に持つものをまじまじと見つめる。

「……刀?」

ドクンと、心臓が脈を打った。


「うん、なかなかいい出来だな」

山本がしげしげと自分の刀を眺めているところに、リボーンが近寄ってきた。

「そのバットこそ見た目はバットで普段は望遠鏡、だが本当はヘッドスピードが時速300kmを超えると刀に変形する“打の武器”なんだ」

「えーっ!!じゃあ山本の武器は刀なのっ!?」

「名づけて“山本のバット”だ」

「アハハハハ!意味わかんねー!!おもしれーこれ!」

「銀の武器も同様だが、そっちは開くと盾になるようになってる。ダイナマイトくらいなら軽く耐えきる仕様だ。銀は薄々勘づいてたようだったし、今回は盾の方を使うと思ってたんだがな」

嬉しい誤算だ、とニヒルに笑うリボーンに、言葉が詰まって返事をすることができない。

「まあ、二人の武器はそれ自体が優れたモンだが、至近距離からの弾丸の速さについていけるのは持ち手自身の能力だからな」

「確かにこの重いの振り回してりゃバッティング向上すっかもな」

山本は刀を振り回しながら言う。

「もう一発」

「あいよっ」

リボーンが撃った弾を軽く斬ってみせる山本は既に使いこなしているようだった。

「よし、銀もーー銀?」

「……え?」

リボーンに声を掛けられてハッと意識を引き戻す。

「刀がどうかしたか?」

「リボーンがいきなり変なモノ持たせるからだろ!おい銀、別にそんなもの持たなくていいんだからな?」

「うるせーぞダメツナ。テメーは一人で銃弾くらい避けられるようになってみろ」

「無理だから!!」

二人の口論も遠くに聞こえる。
刀を持つのは初めてだった。だが、こんなにも手に馴染むのは何故なのだろうか。普段から傘を握っているから?いやまさか。確かに、時々傘を武器にすることはある。あるが、刀とは全く違うものだ。
でも、安心する。

「……いや、持ってるわ、これ」

「えぇっ!?」

「おっ、銀時お揃いだな!」

ツナに驚かれ山本に肩を組まれても、刀から意識を外すことはできなかった。

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