日常編 | ナノ
1

しばしば忘れがちになる、というかほとんど忘れ去られた設定。あまりにも毎日が平和なので、既に本人が忘れたんじゃないのかという声も上がっているそれだが、しっかり本人は覚えているようだ。

「どうしたら強くなるの」

「……どうした藪から棒に」

書類から顔を上げることもなく突然、独り言かと思ったが口調からそうでもないような言葉を発した恭弥。本当に突然すぎて全く付いていけない。

「銀時が、どうしたら強くなるのかって思って」

「あー……」

出会い頭の戦闘で俺を気に入ったらしい恭弥は、強くなる見込みのある俺と戦いたいという名目で俺を傍に置いている。それにしては俺を鍛えようとも戦おうともしない上、時々甲斐甲斐しい程の世話を焼いてくるため、俺としてはそんなことすっかり忘れることもある。

「何?特訓の相手でもしてくれんの?」

「銀時は体が弱いんだから、無理させるのは良くないでしょ」

「じゃあどうすんだ」

「んー」

漸く書類から目を離して間抜けな声で唸った。俺が無理しないで強くなれる手段を模索しているらしい。
今はそこまで体が弱い訳ではないし、自分で言うのも何だがセンスはあると思う。多少の無理はしないと恭弥の満足する強さになるのは不可能だとも分かっている。俺としては全く強くなる気はないためあえて言わないが、別に無理する特訓でもいいんじゃねぇのとは思う。
恭弥の訳のわからないところで発揮される優しさは嫌いではないけれど。

「どうしたら強くなるの」

再び同じことを言った。

「知るか」

「難しいね……今度戦ってみる?」

「銀さん死んじゃうから」

「えー……」

いつもより雰囲気が緩い。時々恭弥はこんな風に、いつもの鋭さを丸々失ったかのようにだらける。恭弥でもやはり、毎日気を張るのは面倒なのかもしれない。ついでに戦闘好きな性質まで失ったりしない所が恭弥らしい気の抜き方だ。
しかし、常に殺気立っているよりずっといい。

「雲雀さん!今朝の件ですがーー」

纏った空気が一気に鋭くなる。人が来ると直ぐ戻ってしまうのだ。勿体無いと、残念に思いながら恭弥を眺める。

「ーーこれが片付いたら僕も行くよ」

「はっ、承知しました!」

事務連絡だけ終えてそそくさとリーゼントの部下が帰っていく。空気はそのまま。一度変わったら再び弛むことは稀だ。

「じゃあ銀時。僕はこれを直ぐに片して向かうから」

「おー。頑張れよ」

「銀時は強くなる方法、考えておいてよ」

まだ引きずっていたようだ。
だが、恭弥らしい。恭弥に見えないようにくすりと笑みを溢して、はいはいと適当に手を振って応接室から退出した。


家に帰ると、丁度ツナが慌てて家を飛び出してくるところだった。

「うおっ、どうした?」

「銀!!リボーンが山本の家にいるらしくてさ……迷惑かけてないといいんだけど……」

眉を八の字にするツナ。山本の家か……今日はもう予定がないことだし、ツナに着いていくのも良いだろう。
俺も行くと言えば、ツナの表情がぱあっと明るくなった。一人じゃ不安だもんな、分かる分かる。

寿司屋に到着すると、リボーンは寿司を振る舞われているようだった。朝からなんて贅沢なやつだ。

「朝から何やってんだよ!」

ツナのツッコミが店内に響く。しかし山本はいつもの朗らかな笑顔のまま。どれだけ懐が深いんだ。

「いーっていーって、オレのためにわざわざ来てくれたみたいだしな」

「山本のため……?」

山本のためとは何なのか。今現在行っているのは店に不利益をもたらすことで、山本家に迷惑しか掛けていない。
まあリボーンが動く理由なんて一つだろう。案の定、リボーンは寿司をぺろりと平らげてから事も無げに言った。

「そーだぞ、伸び悩んでいる山本をパワーアップしてやろうと思ってな」

伸び悩んでいる、という言葉に、一瞬屋上の山本を思い出す。野球でスランプに陥って思い詰めた山本。リボーンの思惑を考えれば確実に野球の特訓ではないだろうが、たまに奇をてらったことをして息抜きさせるのもいいかもしれない、と思ってしまう。だいぶリボーンに毒されている。

「ちなみに落ちこぼれども、今日は開校記念日で学校休みだぞ」

「え?あっ!そーだった!忘れてた……!」

「まあ俺は知ってたけどな」

「え“っ」

明らかに俺をうっかり仲間だと思っていたツナに爆弾を落としてやると、面白いくらい顔色が変わった。残念だったな。

「でも制服じゃん!!」

「昨日恭弥の家に泊まったからな。朝帰る前に恭弥と学校に寄ることになってたから制服持ってったんだよ」

「だ、だから制服だったの……」

だから勘違いして恥ずかしいのはツナだけだ。orzの形に沈むツナを歯牙にも掛けず、リボーンは威厳たっぷりの声でこれから向かう先を指示した。

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