日常編 | ナノ
3

「んで、何をランキングしたいんだ?」

「んー、何をって決まってるわけじゃないんだ」

俺の問いにフゥ太は曖昧な返答をする。僅かに眉を潜めてツナの方へ視線を移すと、ツナは補足してくれた。

「フゥ太はとにかく何かをランキングすること自体が楽しいんだと思うよ」

「ふーん……まあいいや」

子供だしそう理屈は求めまいと、とりあえず始めようということで俺はどっかりと腰を下ろした。……その瞬間。

「面白そーです!新手の占いですか!?」

「ハル!」

図っていたのかというタイミングで現れたハルは、占いという言葉に目を輝かせている。

「なんでお前がいるんだ?」

「雨が降りそうだったからツナさんちの洗濯物を取り込んだんです」

「あ、ありがとう……」

何故他人の家の洗濯物を気にするのか。若干危ない台詞に引き吊った笑みを浮かべるツナを気にもせず、ハルはフゥ太へ笑顔を向ける。

「そーだハルも占ってください!」

「いいよ、ツナ兄たちの友達だもんね」

「はひっツナ兄って、この子もしかしてツナさんの隠し弟ですか!?」

「隠し弟ってなんだよ!」

ツナがなんとか説明し、隠し弟ではないということを納得してもらえたところで、ようやくランキングを開始する雰囲気になる。フゥ太がそわそわし始めた頃だったので、切り良く話が終わって良かった。
最初は乗り気なハルがランキングしてもらうことになった。

「ハルのチャームポイントはなんでしょう?」

「占いってなんだっけ?」

「ただのクイズじゃん!」

ハルのぶっ飛んだ「占ってほしいこと」に双子で同時に突っ込む。占いとしてもおかしいしランキングとしても若干間違っている気がする。
しかし、フゥ太は気にしていないようだった。いくよ、と誰に言うともなく一言呟いたかと思えば、たちまち瞳に子供特有の輝きが消え失せた。屋内だというのにティッシュがゆらりと宙に浮く。それを皮切りに、机やその他、あらゆるものが物理法則を無視して浮かび上がった。

「あーもー誰が掃除すると思ってんだよ!!」

「頑張れよ」

「銀もやるんだよ!?」

「すごい演出です〜」

「おいなんで一般家庭でこんな大掛かりな演出が用意できると思った」

「こちらフゥ太。聞こえるよランキングの星」

フゥ太が虚空を見つめながらぼそりと呟く。瞳には既に光はなく、代わりに見つめれば吸い込まれそうな、例えるならば宇宙のような深い闇が映し出されていた。

「ハルさんのチャームポイントランキング全パーツ中の第一位は……つむじだね」

「!な、何で知ってるんですか!?さてはツナさんが……」

「俺がつむじなんて知るわけないだろ!!」

「え、じゃあ……はひ――!!フゥ太君すごいです!天才占い師です――!」

ツナが疲れきった表情になる。まあ気持ちは分かるが。そんなツナとは対照的に、ハルはフゥ太のランキングを大層お気に召したようだった。

「じゃあハルのツナさんの好きなとこランキングベストスリーを教えてください!」

「は?」

「わかった……ハル姉のツナ兄の好きなところラ ンキング第三位は……」

フゥ太は依然その状態を保ったまま、更に闇を深くする。

「強引なところ」

「あー……場合によってはあるな」

「えっ!?」

「第二位は強いところ」

「まーハルにとってはそうだな」

「誤解を解きたい……」

「そして第一位は…やさしいところ」

「聞きました!?あんなこと言ってますよー!!」

一位を聞いた途端、ハルは嬉しそうにツナの肩を叩いた。

「お前ランキングの使い方変だよ!!」

ツナが叫ぶも、ハルはお構い無しに幸せそうに破顔した。

リア充爆発しろ。半笑いで内心そう唱えた俺は、ふと上の方から慌てたような声がすることに気付いた。上を見上げると、そういえば今まで姿を見ていなかったイーピンとランボの姿。……どうやらフゥ太の不思議な力で浮いてしまったようだ。

「イーピンの箇子時限超爆は大技ランキング816技中38位の一級品だね」

「やっぱスゲーんだ、アレ…」

「それだけじゃない、餃子拳は中距離技ランキングでも520技中116位と高性能だし、この年でこの成績なら文句ないよ!現にイーピンは将来有望な殺し屋ランキング5万262人中3位のスーパーホープなんだ」

「イーピンスゲーんだ!!」

「ほー、すげえなイーピン」

宙に浮いたイーピンを引きずり下ろして、そのまま腕に抱き撫でるとイーピンは照れたように手をパタパタさせる。癒し。

「ランボさんは?ランボさんも何かやって!」

ランボはイーピンが誉められたのが羨ましいのか、宙に浮いたままフゥ太にせがむ。

「うざいマフィアランキング8万266人中ぶっちぎり1位だよ」

「ぐぴゃっ」

馬鹿でも分かるストレートなランキングにランボは流石にショックを受けたようだ。その隣でツナが容赦なく吹き出す。

「殺して座布団にしたいランキングでも1位だ」

よくそんなランキングが思い付くな。
このダメ押しで見事撃沈したランボも回収し、腕に抱いておく。流石に子供をこんな障害物だらけの無重力空間で放置する訳にはいかないし。

さあ次はツナか俺かとお互い目配せした瞬間、またもや図ったかのようなタイミングで人が現れた。

「十代目ー!なんで教えてくれなかったんスか!?ランキング小僧がきてるって!」

「獄寺君!」

「そこで偶然会ってな、面白そーだから俺も来たぜ」

「よお山本」

「よっ、銀時。元気そーだな」

察しの通り、いつもの二人である。
にこにこと手を軽く挙げて挨拶する山本とは正反対に相変わらずツナしか見えていない獄寺は、熱っぽく語り出した。

「前からランキング小僧には聞いてみたいことがあったんです。俺の聞きたいことはただ一つ…十代目の右腕にふさわしいランキングで俺は何位なのか!」

分かりきっていた内容に引きつつも、フゥ太は相変わらず異論なしのようで、ただランキングを続けていった。

「圏外」

「なに―――!!」

思わぬ答えに撃沈する獄寺。最下位ならまだしも圏外なんてあるのか……。ツナの右腕ランキングに何人エントリーされているのかは知らないが不憫なことこの上ない。

「ランキング圏外なんてあるの……?」

「違うよ、大気圏外だよ」

ツナの恐る恐るの問いにフゥ太はあっさりと答える。それにより獄寺は更に沈み込むこととなった。あれだけ切望していたことを全否定されればそうなるのも仕方ない。
憐れなほどに落ち込む獄寺だが、ダメ押しするかのように彼に更なる悲劇が襲うことになった。

「流石フゥ太、見事なランキング捌きね」

不意打ちで降ってきた声にいち早く反応したのは獄寺だった。顔を真っ青にして腹を庇いながら崩れ落ちる様に、声から判断する前にその人物を認識する。

「でも大事なのは愛よ」

フゥ太の力で浮いたのか、天井に貼り付くビアンキは獄寺でなくとも恐怖を覚えるような様相をしていた。というかキモい。

「誰が誰を愛してるのか、はっきりさせましょう?」

「じゃあまずは、ツナ兄が愛してる人ランキング」

「!?ちょっと待っ――!」

ビアンキの言葉に素直に従うフゥ太に途端にツナが慌て出す。そりゃそうだ、ツナの想い人なんて分かりきっているが、この面子に知られたくはないだろう。

「第一位は……レオン」

「ウソー!?」

「嘘だろ!?」

俺とツナの声が重なる。俺は若干笑いを含んでしまったがそれでも衝撃の事実に驚いていることは間違いじゃない。確かに、レオンがいなければツナは死ぬ気モードになれないのだし、当然なのかもしれないが。

「俺、レオンが好きだったの……」

「次は銀兄だよ」

「まじかよ」

俺のもやるのか。というか、今のところ恋愛的な意味で好きな人はいないのだがその場合はどうなるのだろうか。友愛ランキングになるのかそれとも深層心理で最も愛している人間が一位となるのか。

「銀兄の愛している人ランキングは――……?」

ふいに、今まで淀み無かったフゥ太の言葉が止まる。

「うーん、わからない。なんでだろう……」

フゥ太は困ったように眉を下げた。そして空に固定されていた視線を窓へ移したかと思えば、へなへなと崩れ落ちていった。浮いていたものも次々に落ちていく。

「だるい……」

「どうしたのフゥ太!?」

「僕雨に弱いんだ……雨なんか嫌いだよ、ランキングがデタラメになっちゃうし」

いつ降ったのやら、いつの間にか窓の外は土砂降りになっていた。

「雨でランキング星との交信が乱れるって説があるんだ」

リボーンの説明に、ツナの表情が一気に明るくなる。

「え?ってことは、雨が降ってからのランキングは間違いなの?」

「じゃあ、俺のランキングも……」

間違いと聞いて、獄寺ががばりと起き上がった。なんとも調子の良い野郎だ。
元気になった獄寺とは裏腹に、フゥ太は体を投げ出したままだ。

「雨の時でも答えが出なかったことなんて、なかったんだけどな……いつもならデタラメだけどちゃんとランキングできてたのに……」

「そうなのか?」

俺が問うと、うん、と緩慢に頷く。

「ちゃんとランキングできなかったな、約束したのに。悪いなフゥ太」

「ううん、銀兄は悪くないよ。全部雨が悪いんだ。――ねえ、また今度、今度は晴れの日にランキングさせてね」

「おお、約束な」

「うん。約束だよ……」

そう言って目を閉じ、次第に深い呼吸音を出し始めた。

今度は晴れの日に。マフィアが欲しがるくらいに精度の高いランキングをしてもらえるのは少し楽しみだ。
今日のランキングの答えとか、獄寺が右腕ランキング何位なのかとか、山本のランキングも見てみたい。

「次が楽しみだなあツナ」

「愛する人ランキングはもうやめてほしいけどね……」

苦笑いするツナに笑い返して、二人で周りに散らかるものを片付け始めた。

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