日常編 | ナノ
2

「ツナ兄!銀兄!おかえり!」

家のドアを開けた瞬間、元気な声と共にフゥ太が駆け寄ってきた。子犬のように落ち着きなく俺達の前を跳び跳ねている。……尻尾が生えているように見えるのは錯覚か。

「ただいまー」

「ただいまフゥ太」

「ちゃんと待ってたよ!」

「おー、偉い偉い」

褒めて褒めてと目をキラキラさせるフゥ太の頭を撫でてやる。千切れんばかりに振り回される尻尾を幻視した。こういうのに弱いんだよなあ。
暫く無言で撫でていると、不意に背後から声を掛けられた。

「よお、ツナ、銀時」

聞いたことのある声に振り向くと、そこには黒スーツの男達を従えた金髪の青年が立っていた。相変わらずのイケメンっぷりである。
ツナが驚きすぎて口をはくはくさせ絶句しているため、代わりに俺が返答する。

「よ、ディーノ」

「元気にしてたか?」

前回会った時は体調を崩していたためか、ディーノにそう問われた。勿論だと頷くと、頭を撫でられる。俺がフゥ太を撫でる手を止めていないため、なんとも奇妙な連鎖が出来上がった。

俺達が止め時を見失った頃、連鎖の外でぽかんと眺めていたツナが一拍遅れて覚醒した。

「ってディーノさん!何でここに!?」

「ーーっとそうだったそうだった!」

ツナの問いにようやく目的を思い出したのか、ディーノがフゥ太へと視線を移す。同時に取り巻きの男達の視線もフゥ太に集中するが、フゥ太が動じる様子は一切無かった。ツナよりも度胸が据わっているらしい。

「おーっまちがいねぇ!こいつは正真正銘のランキングフゥ太だ!」

「こんにちは、跳ね馬ディーノ」

フゥ太がにこりと笑う。ファーストコンタクトは良好なようだ。

「よろしくな。……早速だが商談だ。ここに来たのはワケがあってな」

ディーノの声が僅かに低くなる。

「フゥ太、あるマフィアのランキングを売ってほしい」

ツナがあからさまに驚いた表情を作る。大方、ただの子供にしか見えないフゥ太に権力者であり(ある条件下では)強く頼りになるディーノが頼み事をしたのが以外だったのだろう。

「実はうちのシマでゴスペラファミリーが活動し始めてな。こいつらがチンピラ共に銃を横流しして、一般人まで巻き込んで治安を乱しやがる。俺としちゃあそいつらを黙って見過ごすわけにはいかねーからな、迅速な制圧のためにもやつらが持っている武器庫の規模ランキングが欲しいんだ。頼めるか?」

途端、ツナの顔に尊敬の色が浮かんだ。ビジネスライクな話を淡々と進める姿はかっこいいからな仕方ない。

「勿論金を用意した」

ディーノが手を軽く挙げると、脇からさっとトランクを持った部下が進み出た。彼がトランクをゆっくりと開くと、中にはぎっしりと――それこそ、俺やツナが一生掛けても稼げるかわからない量の札束が入っていた。ツナもぎょっとして目を剥いている。お前は本当に感情が表に出やすいな。
しかしこの額を特殊ではあるものの年端もいかぬ子供が扱いきれるのか。というかこの額を提示されてどう思っているのかとちらりフゥ太の方を見ると、フゥ太は臆することも喜色にまみれることもなく、ただ微笑んでいた。

「お金はいらない」

「!」

「ディーノは住民を大事にしているランキングで8万2千263人中堂々の1 位だからね!そーゆーボスは好きさ。それにツナ兄や銀兄の兄貴分ってことは、僕の兄貴分でもあるってことだろ?ディーノ兄は」

「……オレはいい弟分をもって幸せだな。感謝するぜフゥ太、ツナ、銀時」

そこで俺を含めるか、とは思ったものの口には出さず、フゥ太から受け取ったメモを手に帰っていったディーノ一行を見送って、ようやくのんびりできると息を吐いた。流石にあれだけ人がいると窮屈だ。

全体の空気が緩んだところで、フゥ太が目を輝かせてこちらへ振り向いた。

「ね、銀兄!ランキングしてもいいんでしょ!」

「約束だからな」

あまりの勢いに苦笑しつつ頭を撫でると、フゥ太は太陽のような笑顔を見せた。

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