Two hands | ナノ


「アレン君アレン君これ見て」
「はあ、今度はなんですか」
「手相占いの本!図書室でラビ先輩にばったり会ってね、借りたの」
「(今度はラビ先輩か…)へえ。見てくれるんですか?」
「うん!右手出してー」

やたら分厚い本と僕の手を交互に見比べながら、桜は事務的に指示を出していく。すっと言われた方の手を差し出すと、ついと何気なく手のひらを指でなぞられて、思わずぴくりと指が引き攣ってしまった。

「…へ?」
「あ…な、何でもないです」

続けて、下さい。照れ笑いを浮かべたまま促すと、桜もつられて笑いながらまた僕の手のひらに視線を落とす。

「えーっと、まず、何から見る?」
「な、何から?じゃあ、えっと…金銭運とか…」
「…まだ叔父さんの借金返済終わらないの?」
「はは…あの人金遣い荒いから…」

自虐的に言って肩を竦めてみせると、桜も楽しそうにくすくすと笑った。小指と薬指の間あたりをそっと辿りながら、本に顔を向けて眉間に皺を寄せる。

「んっと、水星線は、ここ。あー…細かい線がいっぱいあるね、これは…『お金の消耗が激しく手元に残りにくい』」
「げ」
「当たってる当たってる!手相ってすごーい!」

きゃあきゃあとはしゃぐ桜に対して僕はがっくりと肩を落とし、全然嬉しくないんですけど、と涙する思いでいた。

「…他。他の見て下さい」
「うんっ!えっとね、アレン君の生命線はとってもくっきりしてるから、体力は凄くあるみたい。人気線も太いよ!あ、でも…アレン君、悲哀線が凄く多い」
「何です悲哀線って?」
「過去にした悲しい思いの数だけ刻まれる線だよ。ほら、この細かいの。私より全然多い」
「ああ、本当だ…」

悲しそうな顔をして、桜はその無数の線をゆっくりと撫でた。僕に親が居ないこととか、養父すら亡くしてしまったこととか、桜は今知りうる限りの僕の不幸を想っているのだろうな。でも僕は、好きな娘を不安に思わせて同情させるなんてしたくないので。

「…ねえ、桜。恋愛運見て下さい」
「………」

ふ、と顔を上げた桜に、ほら、と急かすように本を指でとんと叩く。小さく頷いて視線を本へ視線を戻し、数枚ページを捲ると目当てのそこで桜の指が止まる。『感情線』。

「…ここ、アレン君のは、末端が分かれてる。これは『少しわがままだけど社交的で、相思相愛になれる幸せの相』…」
「ふふ、大当たりじゃないですか」

本をひょいと彼女の手から取り上げて、あっと声を上げる桜の額に掠めるような口付けを。

「悲哀線なんて、もう増えたりしませんよ。僕は桜みたいな可愛い人と両想いになれた幸せ者なんですから」
「な、何言って、」
「僕、凄く、わがままなんですよ。それでも桜は受け入れてくれる?」

くすくすとからかう様にわざとおどけてそう聞いてみたら、桜は一度唇を尖らせ、しかしすぐに頬を緩めた。

「私がアレン君を幸せにしてあげる」

ああ、台詞、取られちゃった気分だ。


#03 手相を見る


20086011
少し手相に詳しくなりました