マドモアゼルのブランチ | ナノ



by Ace


「…ほんと、朝からよく食べるわね。見てるだけでお腹一杯」

お金は有限なんだからねとぼやきながら、私はバターを塗ったトーストをかじった。さっきまでパスタを掻き込んでいたエースは、もうスコーンに手を伸ばし、ジャムを乗せながら軽快に笑う。

「ははっ、ここの飯うっめーなァ!」
「町一番のレストランらしいからね」
「いやありがてェ、食わねェと火力が弱くなる」
「…それは大変ですこと」

ふ、と肩を竦め、付き合いきれないとまたトーストをひとかじり。はたと何かに気付いたようにエースは手を止めると、私の手元を指差して言った。

「お前、朝飯それだけか?」
「ええ、まあ、量もカロリーも無難だし」
「へえ。うまい?」
「うん」
「じゃ、一口」
「これを?」

こくりと笑顔で頷くエースの口はすでに食べ物で一杯らしく、頬っぺたが膨らんでいる。その状態でよく喋れるものだと感心さえ覚えた。私は半分ほどの大きさになった食べかけのトーストを暫く見詰めた後、エースの口に残り全てを押し込んでやる。

「どーぞ」
「んぐッ…、おー、はんひゅー」

礼、と差し出されたべーグルを受けとって、それを口にしながらエースを眺める。そう時間も経たないうちに、エースの口に詰め込まれた食べ物は全て彼の喉を滑り落ちた。喉を詰まらせるという密かな狙いは失敗に終わって、私は内心ちょっとだけおもしろくない。ことんと首を傾げ、聞いてみた。

「おかわり?」
「ん…、おう」

そう、と私はニッコリ笑って、新しいトーストとクリームを取り上げた。新婚みてェ、なんて浮かれたことを、目の前の男が考えていることになど気付かずに。




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テーマ「人外ファンタジー」
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