マドモアゼルのブランチ | ナノ



by Sanji


今日は良い天気になる。手元のグラスに眩しく反射する朝日の光を眺め、浮ついた心を持て余しそんなことを思った。朝食の済んだダイニングはえらく静かで、決して狭くはないその空間には、食器を片付けているおれと、カウンターでニコニコとデザートを食べているエマちゃん以外に誰もいない。ぱくりと一口、その数秒後に、エマちゃんがふと顔を上げる。

「ん。クリームがいつもと違うような気がする」
「ご名答、レディ。前の町で上等の砂糖を仕入れたんだ」
「あと、バニラのシロップが掛かってるの?」
「良い香りのを手に入れてね、レシピを少し書き換えた。美味いだろ?」
「うん、とっても! 凄いね、サンジくん、どんどん腕を上げてくのね」
「そりゃあ、光栄だな」

穏やかな笑みを返しながら、顔が赤くなっていなければいいと心底思った。褒められて赤面するなんて男がやったところで様にならない。けれどおれにとって、彼女の「美味しい」は特別だった。いつの間にか、彼女の喜びそうなデザートのレシピを考えるのが日課になっていたのだ。口をもぐもぐさせながら、エマはおれに話し掛けてきた。

「ねえサンジくん、私今度、サンジくんのデザート作るところが見てみたい」
「…朝、早ェよ? 朝飯の準備と一緒に作ってるから」
「うん、うん、良いわ。目覚まし時計は早起きするためにあるんですもの」
「そっか、じゃあ明日、太陽が水平線から出た頃にキッチンにおいで」

にこやかに頷くエマちゃんを眺め、どうやら彼女と一緒に過ごせる時間が増えたらしいと密かに喜ぶ自分がいる。きゅ、とまたひとつ、磨き終えたグラスを銀色のシンクの脇に伏せた。

「…ほんと、美味そうな顔して食うよなァ。作り甲斐があるってこった」
「美味しいものは美味しい顔して食べなきゃ、勿体ないでしょ?」
「はは、もっともだ。野郎共にも見習って欲しいモンだな」

三分の一ほどの大きさになった特製のケーキに、エマちゃんの操る銀のフォークが再び刺さる。えらく恍惚とした気分に浸りながら、彼女の唇に消えていくバニラの香りを見詰めていた。彼女の幸せそうな笑顔が見られるなら、今はそれで十分だ。




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