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帰還報告をすべく、でかでかとした豪華な扉をノックしてそれを開いた瞬間の、突然の衝撃に私は息を詰まらせた。衝撃、というのは、大の大人の男が私に、まるでタックルでも仕掛けるように抱きついてきたことを指している。後ろ向きに倒れ込むのを辛うじて防いで、けれど本気で止まりかけた呼吸の抗議もせずにはいられない訳で。

「ぐえっ」
「無事だったんだね…!」
「は、はい? っあ、ちょっと苦しい、息止まるボス…!」

ぎゅうぎゅうと力任せに抱擁してくるそれは、我等がドンボンゴレだった。私が必死に押し返すと、ようやく気付いたのか気持ち腕の力は弱くなったようだったが、彼が私を離す様子はない。こうも熱烈な歓迎はなんだろうか。確かに今回の任務は容易なものではなかったが、そこまで危険なミッションでもなかったはずなのに、ぐりぐりとそのススキ色の髪の頭を私の肩口に押し付け、それからボスは何も言わない。

「あ…あの、ボス? どうかしたんですか、もしかして熱でも、」
「…いや」

苦虫でも噛み潰したような顔をして、ボスは私の顔をじっと見詰めた。解らず首を傾げながら見つめ返すと、ボスの瞳が少し潤んでいるのに気付いてぎょっとする。

「ボ…ス?」
「…お前が、死んだって。連絡が来たんだ」

きゅ、とまた広い胸に引き寄せられる。死、という単語に、すうっと心臓が冷たくなっていく感覚を覚えた。暫しの沈黙の後、不愉快な誤報ですね、って乾いた声で呟いたら、笑うと思ったボスは小さく鼻を啜るだけだった。

「誤報で…本当に良かった…」

母親を見付けた迷子みたいに、ボスは私にしがみつくように縋る。失くしたと思ったものを見付けたというように、私を離そうとしない。一ファミリーの頂点にいる彼が、こんなに弱々しく見えたことはかつてなかった。ボスはどう思っただろう、私が死んだと聞いたとき。私はどう思うんだろう、もしボスが死んだと聞かされたら。

「…ごめんなさい、ボス」
「…なんで謝るの」
「心配させてしまったから。私、ボスを置いて死にません。ずっと傍でお仕えさせて下さい」
「ふふ…プロポーズみたいに聞こえるね」
「そうとって頂いても結構ですよ」

ふさふさした髪を掻き回すように撫でてそう言うと、ボスは顔をかーっと赤らめた。それにくすくすと笑いを返して、それでこそボスですと茶化すと、からかうなよっ、とボスは眉を下げる。その顔から悲しみの色が消えているのにとても安心した。ああ良かった。私が欲しかったのは、あなたの涙声でも笑えない冗談でもないんだもの。

「ボス、ただいま」

さあ笑って。


ただいまに私の大好きな笑顔を返して/20081224
主催企画「カクテルベリーにキス」に提出