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※ヒロイン死ネタ注意



「―――何をしてるの?」

いかにも不機嫌そうな声で、眼で、睨まれて初めて、自分の指が彼女の長い髪の一束と戯れていたことに気が付いた。一番驚いたのは他の誰でもない自分で、声が喉から転がり落ちる前に、オレはぱっと手を退いて彼女のそれを解放した。
彼女は眉間にしわを寄せて、小さな手でオレが弄っていたところを訝しげに撫でた。また手の甲に切り傷を増やしたようだった。
ぱちぱちと丸い瞳でじっと見られて、顔が熱くなることに耐え兼ねたオレは、ふっと視線を床に落とす。

「…そんな長い髪、邪魔じゃねえのかと思って」
「そんなの余計な…お世話だわ」

違う、あんまり、きれいだったから。艶々となびくそれについ見とれたから。彼女の言葉に棘が増す。

「怪我も増えてるさ、その、頬っぺたの傷。女の子なんだから気を付けないと…」
「エクソシストに男も女もない。大体、ラビには関係ないことよ」

エクソシストである前に女の子だ。お洒落したり恋愛したりする権利がある、お前は立派な女の子だ。それでも懸命に戦う彼女を心配したいのに、オレの口調は何故だか尖る。

「何でそんなに反発するんさ、可愛くねー。これでも心配して…」
「それが余計なお世話なのよ、ラビがいちいち突っ掛かるのが悪いんじゃない」

男が女にいちいち突っ掛かる理由なんてそう多くないだろう? オレなんてきらいだと訴えるお前のその目に恋をしてるなんて、思ってもみないんだろうけど。

「もう次の任務があるの。あなたとゆっくりお話してる暇はないわ」
「…ああどーぞ、オレなんかに構わず? 大事なだぁーいじな任務にわざわざ遅刻させる義理なんてないんでね」

勿論行かないでくれとは言わない、言わないけれど、気をつけて、どうか無事でとすら、皮肉を言い慣れたこの口からは出てこない。彼女は眉を潜めると、何の迷いもなく踵を返して僕から離れていく。
お前のことが好きだなんて、こんなに、胸が押し潰されそうなくらい大好きだって伝えたら、やっぱりお前は難しい顔をするんだろうか。オレが素直に美しい髪を褒めたり、怪我を労ったり出来たら、お前も少しはオレに気を向けてくれるのだろうか。今すぐその背中を追い掛けて、絶対に生きて帰って来いと、お前を失いたくないと抱き締めて懇願したら、一体なんて言葉を返されるんだろうか。
そんな疑問ばかりなのに、この口はいつまでたってもひねくれているし、両の足は彼女を追い掛けるどころか、反対方向へと歩きだした。彼女が任務から帰ってきてからでも遅くない。優柔な脳は、訪れるかもわからない「未来」へ逃げた。

伝わらない想いは今も、オレの中でありもしない出口を探して、ぐるぐると、ぐるぐると、暴れる。
お前は帰ってこなかった。


臆 病 者


今更に叫ぶ愛など、神が彼女に届けてくれるはずがない。

//20091217
ヘタレなラビはおすきですか?