「あのう、骸さん」
「どうしました?」
「ボスからお届け物ですよ」
ついさっき玄関で宅急便に対応した私が持ち帰ったのは、華奢なリボンがかかったシンプルな白い箱。「要冷蔵」と書かれたシールを見る限り、食べ物だろうか。クール便のトラックで運ばれてきたそれはひんやりと冷たい。
「へえ、何でしょう?開けてみて下さい」
「はい」
するりとリボンをほどいて、シールを剥がし蓋を開けてみる。覗き込んだそこには、大きなフルーツケーキがあった。フルーツとは言ってもパイナップルオンリーなのだが。
そして真ん中にちょこんと乗ったチョコレートのプレートには、白いチョコで『Buon Compleanno』と走り書きされてある。
「『誕生日おめでとう』…へぇ、骸さん今日誕生日なんですか」
「…沢田は僕を祝っているのでしょうか馬鹿にしているのでしょうか」
「どっちもじゃないですか?」
「僕は別にパイナップル大好き人間ではないんですけど」
「そこはもう公式なんですから諦めた方がいいと思いますよ。ケーキ、今食べます?」
「…はい」
じゃあ犬と千種、あと髑髏ちゃん。呼んできて下さいね、と箱を持って台所へ行く私の背中越しに、深い溜め息が聞こえた。
「…あれ?骸さん、」
がらんとしたリビングは、犬がいるときには有り得ない程静かだった。案の定リビングにいるのは骸さんだけのようで。
「犬と千種なら居ませんでしたよ。近くの駄菓子屋かどこかに行ってるんでしょう」
「そっか…じゃあもう少し待ちますか」
「いえ、別に僕の誕生日ケーキなんですからいいでしょう」
「や、でも」
「ヒロイン」
座って?と笑う骸さんの声は、優しいのに確かな強制力があった。出かけた言葉を飲み込んで頷くと、私は食卓のテーブルではなくリビングにあるソファに腰を下ろす。切り分けたケーキの皿の片方を骸さんに渡し、自分のケーキの上に乗ったパイナップルをフォークで拾いながら話し掛ける。
「それにしても6月9日って出来すぎてませんか?」
「私には生誕する日時の操作くらい容易なんですよ。輪廻云々以前に、初めてこの世に生を受けたのも696年です」
「えっそれほんとですか!」
「嘘に決まってるでしょう」
けろっとそう言って、骸さんはケーキの角をフォークで崩した。なんだ嘘かよ。有り得ないような異次元の話も、骸さんが言うと冗談に聞こえないのだ。
「戴きまーす」
ぱく。口に放ったパイナップルは噛む度に甘くて酸っぱくて、流石ドンボンゴレからのケーキだなあとか変なところで感心してしまう。美味しーっと歓喜している私を骸さんが複雑な表情で見詰めているのに気付いて、どうしたんですか、パイナップルも意外といけますよと促すと。
「ヒロイン、今君がケーキを食べてる理由は解っていますか」
「?解ってますが」
「…パイナップルは好きではありません。ヒロインが食べさせてくれるなら、食べないわけにはいきませんが」
「え、私ですか?」
そもそも戴きますより先に言う言葉があったでしょう、拗ねたようにぼやく骸さんの頬っぺたに両手を当てて、
「むくろひゃん」
「は、」
ちゅ。パイナップルを含んだまま口付けて、そのまま舌で彼の口内へそれを押し入れてやる。唇を離した瞬間に骸さんの喉元が大きく上下して、大して噛みもせず飲み込んでしまったことを知り、可笑しくなった。お望み通り「食べさせて」あげたのに。
「お誕生日おめでとうございます、骸さん」
「…敵いませんね」
果汁に濡れた唇を手の甲で拭いながら、骸さんは敷かれた黒のカーペットへと視線を落とした。ああ、ここまで骸さんの顔が赤いのも珍しい。
happy birthday to Mukuro!
//20080611