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一体何なんだと言うんだ。目を覚ました途端に、感じた違和感と重みはこれかと理解する。任務に出ていたはずの彼女、ヒロインが、だき枕よろしく僕の腰回りに抱き着いていたのだ。顔を見ればこれまた幸せそうな間抜けた寝顔。むにゃむにゃと閉じた口を動かしながら、ヒロインは顔の角度を僅かに変えた。

「ねえ、ちょっと。ヒロイン。重いんだけど」

頭をぐいと押し退けてみたり、頬をつねり上げてみたりもしたが、まるで起きる気配を見せない。むしろ更にぎゅっと腕に力を込めて、僕から絶対に離れまいとする。僕だって寝起きなんだ。男の事情ってものも少しは考えろと言ってやりたい。僕が本気を出せば、いや、出すまでもない、彼女を退けることなんてそれこそ朝飯前なのだが、しかし結局僕はそれをしないんだ。これだから彼女には甘い。本人自覚済み。

「…ひば…りさぁ…ん」

もごもごと名を呼ぶ声がして、僕は驚いてヒロインの小さな頭を見下ろした。どうやら寝言だったようで、彼女は瞼を伏せたまま意味をなさない言葉をまた何やら溢す。まったく、何の夢見てるの、と僕は浅く溜め息を吐いた。時計を見れば午前三時。朝食にはまだまだ早い。
帰ってきて、一直線に僕の元に来たのだろうか、外行きに羽織るコートが彼女の肩からずり落ちていた。僕はそれをそっと取り上げると枕元に無造作に投げ、それからヒロインを引き寄せると、僕が今まで被っていた布団に入れてやった。ヒロインは小さく唸ってから猫のように背を丸め、僕に、というよりは、温もりに縋るように抱き着いてくる。湯たんぽ代わりにされても何故か不快ではないのは、きっとそれが彼女だからだ。僕はヒロインの背にそっと片腕を回すと、まだ少し冷えて赤くなっている耳に唇を触れて、「おかえり」、と囁いた。愛しい人は未だ夢の中。



//20081017