log | ナノ

空は青くて雲も白くて、小鳥の楽しげな歌がどこからともなく聞こえてくる。緑たなびく健やか健気、並盛は今日も平和です。

ごはんにタコさんウィンナーが出て朝からテンションが高い私は、ふんふんと鼻歌を歌いながら学校への道を辿っていた。今日も勉強頑張ろう!と小さくガッツポーズなんてしていたら、見えてきた校門のところに雲雀さんが顔を軽く俯けたまま立っているのが伺えた。肩に学ランが引っ掛かっているから、顔が見えなくたってすぐ解る。

「あれ?風紀検査は明日だったよね?どうして雲雀さんあんなところに…」

まあいいや、朝からあの綺麗な顔を拝められるとは、なんて良い日なんでしょう!小走りに校門に近付いていくと雲雀さんはふと顔を上げた。雲雀さん!と手を振ろうとした直前、私は硬直せざるを得なかった。

「あ、ひ、雲雀さん、おはようございます」

私の幾分前を歩いていた後輩のツナくんが、一人でただ黙って佇んでいた雲雀さんに怖々挨拶をする。雲雀さんは一拍の間の後にっこりと、そう、本当ににっこりと微笑んだのだ。

「ああ、おはよう沢田」

ツナくんと私は目をこれでもかってほどに見開いて、ツナくんに至っては加えて鞄をどさりと落とした。ただ挨拶を返しただけ(そう、本当にそれだけなんだけど)の雲雀さんは、不思議そうにその様を見詰めていた。

「何してるの?君は本当にそそっかしいね」

開いた口が塞がらない様子のツナくんの前に屈んで鞄を拾い上げると、ぱんぱんっと軽く砂ぼこりをはたいて、はい、とツナくんに差し出す雲雀さん。戦々恐々としたツナくんは、がちがちに強張った顔でそれを受け取り「ああああり、ありがとうござ、っいます!」と叫びながら猛ダッシュで校舎の方へと駆けていった。速い。ダメツナとか言われてるのに逃げ足は速い。

一方私はまだ頭がごちゃごちゃしていて、取り敢えずぽかんと間抜けに突っ立っていたら、ふと雲雀さんがこっちを向いて目があった。うわ、と、今までに雲雀さんと目があったときには思ったこともなかった言葉が洩れる。途端に雲雀さんがつかつかつかとこっちに早足に近付いてきて、や、ヤバイ!聞こえた!?今の聞こえた!?

「ヒロイン」
「は、っ…!」

あっという間に雲雀さんは目の前で、静かな声で名前を呼ばれびくびくしながら返事をしようとしたら、


―――ちゅ


「……っん!?」

なんの脈絡もなしに、口付け、られたのです。

「んぅっ、ひ、ば…っん、んん!」
「…煩いよ…」
「ふ、うぅ」

私が煩くする理由なんて雲雀さんが突然こんなことするからでしかないのに、更に深く唇を塞がれて私はもっとパニックになって、(ああ悪循環!)

「んく……っぷは!」
「何、キスだけでへたりこんじゃって」
「だ、って、雲雀さんいきなりで、びっくりした…」
「うん…ごめんね、ヒロインがあんまり可愛かったから」

ぼぼぼっと顔が一気に熱くなって、目の前がちかちかした。この人ほんとに雲雀さん?偽雲雀さん?なんか、いつもと、キャラが違…?

「ほら立って、そろそろチャイムが鳴る」
「あ、はい…」

ぐっと腕を引っ張られて、私はよろけながら立ち上がる。支えるように腰に回された手があまりに自然だったから、こんなにドキドキするのは私が意識しすぎだからなのかなと、しかしやはり緊張を隠しきれずにいると。

「ヒロイン」

可笑しそうにくつくつと笑った雲雀さんは、まだ赤いであろう私の耳元にそっと顔を伏せて、まるでおはようと挨拶するかのように言い放ったのだ、

「愛してるよ」

その熱く溶ける甘い声で。


(…っていう夢を今朝見てね)(…僕にどうしろと言うんだ)


//20080608
有り得な雲雀夢オチ