log | ナノ

季節外れもいいところだよなあと染々思いながらも、こうも肌寒いというのに腕捲りをして、うきうきとした様子で打上げ花火の準備をしている親父の姿を眺める。この前町内会から、今年の花火大会で余った花火を大量に貰ったからと言って、久し振りに仕事が早く終わった今日に公園でやっちまおうと言い出したのは親父だった。

「近所迷惑じゃねーの?」
「いんや、寧ろ皆楽しみにしてるさ。冬の花火が見れるってな」

へえ、と俺は曖昧に相槌を打つと、バケツに溜められた水に人差し指をちゃぷんと突っ込んだ。冷たさに思わず身震いする。

「おっし始めるぞ!武、火ィ貸せ火」
「ん」

右手でぐりぐりと弄っていた100円ライターを思い切り投げ付ければ、親父はそれを片手でぱしりと取ってガスの具合を確かめた。そしてひとつ、打上げ花火の導火線に火を付けると、数歩後ずさって俺の隣に並ぶ。バシュッとはぜるような音がしたかと思うと、光の玉が勢いよく空へ一直線に飛んでいき、ドン、と爆発音を立てて見事な花を広げる。おー、と俺は自然と笑んだ。市販のものにしてはなかなかよく出来ている。

「おう上々だな!どんどん行くぞー」

子供のようにはしゃぎながら次々花火に着火していく親父と夜空を飾る光をのんびりと眺めていたら、ヴヴヴ、とポケットの中の携帯が振動した。…あ、アイツ。俺の、まあ、あれだよ。コイビト。

『あっもしもし、山本くん?』
「ん、どした?」
『ねえねえ、見てる?花火上がってるの!冬なのに!』
「あー…ああ、俺の親父が上げてる。公園で」
『えっ!?山本くんのおじさん!?』

電話口から驚いた彼女の声がする。ドオン、とこちらで花火が弾けると、彼女の後ろからもそれらしき音が聞こえてきた。

『へ、へええ…そっか、そうなんだ』
「…な、良かったらさ…こっち来て一緒に見ね?」
『!えっ、そんないいの?』
「おう!だってほら、近くで見た方が良いだろ」
『うん…うん、行く!』

嬉しそうな大声に少し耳が痛くなったが、俺はふわりとした恍惚を胸に抱いた。待ってる、と返事する前に電話はぶつりと切れてしまうが、それが彼女らしくて可笑しくて、俺は携帯を握りしめたままくっくと笑う。

「武?何笑ってんだ」
「俺の彼女ってかわいーと思ってな!」

数十分後に駆け寄ってきたお前はこんなに寒いのに少し汗をかいていて、走ってきたのだろうと思うともう可愛くて可愛くて、体全部で息をする彼女を、俺は思い切り抱き締めた。

「やっやややまもとくん!?あっおじさんこんばんは!」
「お前ほんっとかわいい!」
「はあ!?何が!?」
「全部!」

上がる花火はただ美しく、赤面する彼女の顔を明るく照らすのだった。


//20081031
企画「愛したウエンディ」様に愛を込めて