ふいに、なんの前触れもなしに、キスしたくなることがある。それは長い間触れない事で起こる、禁断症状のようなものだと、思う。他愛のない会話や授業の最中ですら、その感情は突発的で、自らでも予測不可能。そして、放課後の屋上で二人座り込み、話をしていた今 も。
「…え? や、山本くん?」
購買で新発売されたメロンパンが美味しくて、とかそんな話をしていたヒロインは、そりゃもう驚いていた。大人しく聞き役をかっていた俺が突然ヒロインの頬を両手で抱いたのだから、当然といえば当然なのだが。
「? …、?」
じっと顔を見詰めて動かない俺に困惑して、ヒロインはしきりに首を傾げる。何か言いたげに口を開きかけ、しかし直ぐに閉じる、その繰り返し。あー何でだろ、よくわかんねぇけどすっげぇキスしたい、今すぐ。そう思っていたら無意識に自分の手がヒロインをゆっくり引き寄せていて、何をされそうになっているのか理解したヒロインは、頬を赤らめて微かに顎を引いた。
「へ…? や、ちょ、やま…」
「嫌か?」
「ち、ちが、けど…ここがっこ…」
「ヘーキ、誰も居ねぇよ」
「だけ…っ」
ちゅ。渋るヒロインの唇を半ば強引に奪う、だってもう我慢出来なかったから。暴れようとする手首を強く掴んで、もっと、と自らに引き寄せる。ほんのりと砂糖の味がした。
「ヒロイン…なんか今日、あまい…」
「ぅ、だって、メロンぱ…ん、んっ」
息継ぎをさせてやるために唇を離したついでに囁くと、ヒロインは肩を揺らしながら途切れ途切れに答えてくる。すぐにまたそれを塞いでしまえば、またびくりと彼女の肩が震えた。
「んーっんっ…ん、ぅ」
苦しげなヒロインの声に酔ってしまいそうだった。すげぇ甘い、っていうか旨い、これだからヒロインとの口付けは止められない。
「ふ…ゃ、っ…ん」
ヒロインの唇がきつく引き結ばれて、俺に限界を伝えてくる。可愛いなあと微笑いながら、軽く彼女の唇を一舐めして離れた。
「やまも…く…」
深いキスはしてないのに、へなりと脱力してしまうヒロイン。つーかまだそこまでは未経験なのな、ヒロインにとって俺は初めての男らしいから。とろりと潤んだ目が下をむいて、ぽそりとひとり言のように呟く。
「いつもの、山本くんじゃ、ない…」
「そーか? ヒロインはいつも通り甘いな」
濡れたヒロインの唇を親指でつつっとなぞって、耳元にそう吹き込んだ。俺の服を掴む手がふっと緩む。
「っ…ばかー…」
彼女の声も、仕草も、強力な引力のような力で俺を惹き付ける。何より、彼女は俺を甘やかしすぎると思うんだ。だからついつけこんでしまう。
「…なあヒロイン、俺」
肩にかかったヒロインの髪に、指を絡めて、キスを落として。
「お前とのキスに依存してるみたい」
「……!」
ぼっと火が出たみたいに顔を赤らめるヒロイン。ほんと純情。かわいいかわいいおれのヒロイン。
「だから、な。俺を夢中にさせた責任取って、」
理不尽にそう甘えて、弱く赤い頬をくすぐった。ヒロインは答える代わりに目をきつく閉じて、その手の甲に掠めるキスをする。了解、ととっていいんだよな、これって?
//20071216