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「…お前、今日が何の日か知ってんさ?」

はあ、と心かららしきため息を吐きながら、ラビは大層憐れんだそのひとつの瞳で私を見た。何だ何だ。お菓子か悪戯か選べと言われたから飴玉をひとつあげたのに、そのあまりにもな反応は何なんだ。私はむっと唇を尖らせて言い返した。

「知ってるよ、知る人ぞ知るハロウィーンでしょ。だからさっきジェリーさんに貰った飴あげたんじゃない」
「この飴はジェリーのなんだな? じゃあこれはジェリーから貰った分ってことで、はいヒロイン、トリックオアトリート」
「それを言われたらあげなさいってジェリーさんがわざわざくれたの! だから今のは私からで」
「解ってねぇさ。ハロウィンは謳い文句に託つけて可愛い彼女に普段出来ない悪戯をするっていう男のための素晴らしきイベントだろ?」
「秋の豊作を神様に感謝する儀式的行事よ馬鹿ラビ」

つんと言い放つと、ラビは物凄く不貞腐れた顔をした。全くこのウサギは、何が謳い文句に託つけて〜だ。年中そういう事ばかり考えているくせに。

「じゃあさ、せめて仮装してよヒロインちゃん。今教団で普段着なのユウかヒロインくらいさ?」
「断る。私別にお菓子ねだりで歩き回ったりしないもん」
「〜〜ッ…、これでも十分譲歩してるんさヒロイン頼むから俺の楽しみ奪わないで…!」

子供みたいに駄々をこねる真似事をしながら、ラビは涙ながらに私の腹部に抱き着いてきた。鬱陶しいわと足蹴にしてもめげない彼に、今度は私が大きくため息を溢す。

「…解った解った、ちょっとだけね」

諦めるように言うと、ラビは目をキラキラさせて頭を上げた。

「ほんとさ!?」
「何をすればいいの?」

輝いていた瞳がぱちくりと丸くなり、ラビは少し考えるような仕種を見せた。それから、じゃあ、と言って、自分が付けていた獣耳付きのカチューシャを取ると、それを私の頭に乗せた。

「何? これ。犬耳?」
「違うさ、オオカミ」
「…私がオオカミでいいの?」
「だって今それしかねーんだもん」

カワイーさ、とへらり、笑うラビに、私は唐突に思い付き、ふさふさした耳を弄っていた手をにっこりと突き出すように差し出した。きょとんとこちらを見つめ返すラビに言う。

「trick or treat?」
「…はあ?」
「私ちゃんと仮装してるでしょ。だからほら、悪戯が嫌ならお菓子を頂戴?」
「…菓子なんて、ねえさ」

ラビは驚いた様子だったけれど、すぐにニヤリと面白そうに笑い、私がさっきあげた飴玉をぽいと自分の口に放るとすぐに飲み込んでしまった。私は更に笑みを深くして、なら悪戯よ、目を閉じてと囁いた。ラビは口元をまだ横に引き伸ばしたまま、すっと片方しかない目を閉じる。私は彼の肩に手を置いて、身を乗り出し顔を近付ける。そして大きく口を開くと、

オオカミらしく彼の鼻に噛み付いてやったのだ!

目の前でぱちりと勢いよく開かれた翡翠色に、私は挑発的な笑みを返してやった。お生憎様!


「狼は兎の捕食者よ」

//20081031