log | ナノ

58分47秒、48、49、50秒。懐中時計を見詰め、私は暗い水路をただ息を切らして走っていた。頑丈に作られたブーツの踵がコンクリートの床を叩いて、その音が波打つように反響して返ってくるのだから、必要以上に喧しく感じる。無情に流れる時を規則正しく刻む秒針はカチリカチリと動き続け、今日の終わりに、明日の始まりに、近付いて行く。どこか遠く前方で、地響きのような大きな音が聞こえた。恐らくは船が止まった音。彼が乗っているはずのそれが。カチリカチリ、59分20秒、21、22、23秒。「今日」が終わるのにもう1分もない。声を出すことさえも億劫なくらい、喉は上がった息のせいでからからに渇いていた。カンッ、と一際大きな音を立ててそこに立ち止まると、丁度ラビが降りてくるのが見える。鮮やかな髪に巻かれた痛い程白い包帯が目にちらつき、しかしそれ以外に目立った怪我はないように思われた。私が叫ぶ前にラビはこっちに気付いたようで、いつもの笑顔で私に笑いかけた。彼の手には二冊程本が握られていたが、それでも構わない、なんせ時間がない、「なーなー聞いてさ、今回の任務先ねぇー」「待…って、私先に言わせて」「え? なん、」「いいから聞け!」51秒、52、53、54秒。私はもう片手に持っていたそれをラビに向けてびゅんっと思い切り投げ付けた。「へッ!?」驚きに目を見開きながら、それでもラビは飛んでくるそれに腕を伸ばし、ばさりと受け止めた。衝撃に散った黄色がはらはらと水路の水に落ちる。「こ…れ、」驚いてる暇なんてあげない、だってもう3秒しかないの! 私は投げ付けた花束ごとラビに抱き付いて叫んだ、「ハッピーバースデイ、マイディアーラビ!」ひしゃげた向日葵の花に埋もれた赤毛の少年は、日付が変わったのを知らせる時計の音が響いて数秒後に漸く気付き、「ああ」と小さくほほえんだ。


//20080810
Happy Birthday to Lavi!