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※ 生徒会長神田。



だんだん日が落ちるのが早くなってきたなと、まだ6時前なのに紫に染まった空を窓からちらりと見上げて、俺は溜め息を吐いた。これからはきっと更に帰宅が遅くなってくるにちがいない。数週間後に控える次期選挙のため、生徒会は今から大忙しだ。めんどくせぇ…と、現生徒会長である神田は溜め息を吐いた。
昇降口へぶらぶらと向かう途中、明かりがついた教室がひとつあることに気付き、俺は顔をしかめた。どこのクラスだ。確かあそこは…B組か。ラビやリナリーのクラスだったはずだ。全く日直も満足に出来ねぇのか…と毒づいてから、もう一度小さく溜め息を吐いて、元来た廊下を引き返す。腐っても自分は生徒会長だ。今日の日直の野郎は、明日きっちり絞めるとして。

校舎の中はどこも、零れる夕陽の赤ではなく、微睡みかけた夜の藍に染まっている。そこで一際目立つ白い蛍光灯の、光源の教室に辿り着き、俺は微かに目を細めながらドアを引いた。女子がつけてきた香水の入り混ざった香りが鼻につく。綺麗に整列させてあるとは言い難い机。がらんとした無人の部屋、そんな光景が俺の瞳に映る。はずだった。はっと俺は目を見張った。
ぽつりと置かれたひとつの席に、制服姿の少女が突っ伏し、腕に頭を埋めて寝入っていた。ああそうか、と俺は思い当たる。B組は彼女のクラスでもあった。
ピシャンとドアを閉めて歩み寄ると、静かな寝息が聞こえてきた。本気で寝ているのか。夜は冷え込むというのに、というか夜までここに居たら警備員に捕まる。アホかこいつは。

「おい、」

肩に手を置いて軽く揺さぶってみたが、一向に彼女は起きる気配を見せない。イラッとして髪の隙間から垣間見える耳を引っ張ってみると、痛そうにしながらもごろんと顔をこちらに向け、小さく唸っただけで覚醒には至らなかった。この女殴ってやろうかと拳を戦慄かせていたら、くぁ、と彼女が小さく欠伸をしたので、俺は思わず伸ばしかけた手を止めた。無防備に無防備に。気持ち良さそうに眠りこける少女。

「そんな顔して寝てたら…狼に喰われちまうだろ…」

つい、と彼女の下唇を親指でなぞる。想像以上に柔らかい感触に背中がぞくりとした。ばっと手を引いて口を引き伸ばす。やばい、やばい、俺の方がよっぽどオオカミじゃないか。
数回深呼吸して鼓動の乱れを整えてから、俺は彼女の耳に口を近づけると、すうっと深く息を吸った。

「…起きろこの馬鹿!」
「ぎゃっ!?」

色気もへったくれもない声を上げて飛び起きた彼女は、驚いた顔をして俺を凝視した。かいちょ、と声を震わせ、何故だか顔を真っ赤にするそいつに笑って、可愛らしくぴょこんと跳ねた寝癖を引っ張ってやった。

「ほら、さっさと帰るぞ」


//20081105
神田→←ヒロイン