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某月某日、とある教室にて

「ねーねーかーんだー」
「………」
「ゆーうちゃーんこっち向いてー」
「………」
「こっち向けって言ってんだこのパッツ」

ン。言い終わる前にバシンッと目の前に竹刀が振り翳されて、私は神田の髪に伸ばしかけた手をびくりと引っ込めた。ギラリ。そんな効果音まで聞こえてきそうなほど鋭い眼光で睨まれて、私は思わずごくりと喉を鳴らした。

「い ま な ん つ っ た」
「ごめん神田何でもない私なーんにも言ってないからね、ほら竹刀は危ないから引っ込めてくださーい…」

さすが剣道部主将といったところか。私の手の代わりに神田の一打撃を受けた机は盛大にへこんでいた。あはは、笑いを洩らす唇が声と同様酷く乾いているのを自覚する。怖いぜこの人。

「だ、だってさだって、神田くんが無視するのがいけないんじゃないですか!」
「考え事してるときに話しかけてくるお前が悪い」
「考え事?考え事してたの?だって神田いっつもそんな仏頂面」

パシン。二度目の一本は私の頭にクリーンヒットした。手加減はしてくれたようで、しかしそれでもじいん、と痺れが体中に降りてくる。

「〜〜……っ」
「お前本当に可愛くないな」
「事実!私は事実を言っただけです!まったく横暴なんだから」
「ああん?」
「ごめんなさい」

あああ逆らえない。条件反射のようにまず謝罪、このパターンを覚えてしまっている自分の利口な口が恨めしい。

「何の用だよ」
「え?」
「俺になんか用があるんだろ?」

あ、しまったと察したときにはもう遅く。一緒に二人きりで居るのにずっと会話もなく、ただ構って欲しかった、そんなこと言ってしまえば今度こそフルパワーで竹刀が頭を直撃だ。だからと言ってただ呼んだだけ、なんて言おうものなら、メデューサも裸足で逃げだすような恐ろしい目で睨まれる可能性も否めない。「おい、さっさと言え」、うまい言い訳を考えられないうちに急かされ、賢いはずだった私の口はうっかり滑る。

「神田さん構って欲しいです!」

衝撃に備えぎゅっと目を瞑るのに、いつまで経っても頭に痛みはなかった。代わりに私に訪れたのは、怖いくらいに甘い口付けの感触。

チェリーコーラ
(君にキスする口実をずっと考えていました)

//20080924
初心に帰ってツンデレ神田