log | ナノ

男はオオカミ、なんてよく言ったものだけど、私の大すきな彼はどちらかというとかわいいお猿さんです。スキンシップがすきで、私がぎゅうってしてほしいときにはいつも優しく抱きしめてくれる。あったかくて、細く見えるのに逞しい腕、私の体を覆い隠してしまえる広い胸。ルフィ。るふぃ。大切なひと。

「ルフィはいつも、あったかいですね」
「ん、そうか? ヒロインもいっつもあったけーぞ」
「へ?…そうですか。わたしだけがあったかい訳じゃなくて良かったです」

ぎゅー。しがみ付く腕に力を込めたら、ルフィの体が小さくぴくりと身じろいだのがわかりました。私が体中の力を全部振り絞っても、ルフィは痛くもかゆくもないハズです。だから私は安心して、力いっぱいルフィに抱きつきます。けれど最近のルフィは、私がそうやって甘えるたびに、ちょっと戸惑うような反応を返すようになっていました。伝染したように、私も心を揺るがして体を竦めます。

「ルフィ? 苦しかったですか?」
「………」

ルフィはすこし私の体を離して、じっと顔を覗き込んできました。苦しいのか、という問いかけに肯定も否定もしません。見つめ返したその瞳が、視線が、どことなく熱っぽい様には感じていました。私を見つめるその表情が、色っぽいな、なんて無意識に思ったこともありました。けれど私はその理由を知りません。明確な答えを、ルフィはいつもくれないのです。

「ルッ…」
「ヒロイン」

もう一度名前を呼ぼうと口を開きましたが、ぐっと引き寄せられたせいで、言葉は形になりませんでした。ポス、と音をたてて彼の腕の中に収まります。耳を押し付けた胸から、普段よりもはやい鼓動が聞こえてきました。どくん、どくん、どくん。私の頭の後ろや背中にまわされた手が、何かを抑えるように震えています。

「なーヒロイン」
「はい、なんでしょう」
「おれ、お前が好きだ」
「! な、何でそんな、いきなり」
「お前は? おれのこと好きか?」

こんなこと聞いてくるなんて、珍しい。なァ、とルフィが突然、あんまり甘い声で囁くから、私の心臓はどっきんと大きく跳ね上がりました。咄嗟に浮かんだのは、ずるいという言葉。

「す、すきです、私……知ってるでしょう」
「…どんなおれもか?」
「え…?」

顔をあげると、ルフィは難しそうな顔をして、眉の間にしわをつくっていました。私は首を傾げ、彼のほっぺを両手で包みます。ようやく気付きました。彼の顔がほんのりと赤い。柄でもなく緊張した様子の彼に、私はこみ上げるまま笑い掛けました。

「どんなルフィもです。ルフィの全部が大すき」
「……!」

驚いたように照れたように、ルフィはそんな表情をして、なぜかごくりと喉を鳴らしました。にこにこしながらそれを眺めていたら、ゆっくりとルフィの顔が傾いて、私の顔との距離が縮まってきます。驚いて私は咄嗟に目を閉じました。ぬくもりが私の唇を塞ぎます。あんまりどきどきして、ぎゅっと口を引き結んでいた私の、後頭部に添えられていたルフィの手が、そっと動いて私のうなじを撫でました。大変なのはそれからでした、びっくりして声が出そうになった拍子に、僅かに開いた唇の隙間から、熱い舌が私の口の中に入ってきたのです。

「ふ!? う…る…っ」

かーっと顔が一気に熱くなって、くらくらしました。心臓が爆発してしまいそう。口をくっつけたことはあっても、こんなキスは初めてなのです。なされるがままに舌を吸われ、あちこち舐められて、微かに立つ水音に聴覚までが侵されます。唇が離れたころには、もう地に立っていることすらままなりませんでした。そんな私を支えるようにして抱きしめ、ルフィは熱っぽい声で囁きます。

「足りねェ。まだ。ヒロインが足りねェ…」

私は、ルフィを思いっきりぎゅうってすることで満たされていたけれど、弱い私を力いっぱい抱きしめられないルフィは、それだけじゃ私と同じ気持にはなれないんだって気付きました。世界で一番大切なひとが、私が足りないとこんなに切なげに訴えて。だったらいっそのこと、オオカミのように、私を喰い尽してくれて構わない。私はたまらなくてたまらなくて、手のひらをぎゅっと握り、上がった息の中で声を振り絞りました。

「ルフィ、もらって…私の全部を、もらって、ください」
「ヒロイン…、」
「足りないなら、ルフィが…私でいっぱいになるまで…」

悲しくもないのに目頭が熱い。どうしたらルフィが満たされるのか私には分からないから、ルフィの望むことすべて、叶えてあげたいと思ったのですけれど。ルフィは小さく息を詰めると、またさっきのと似た、けれど今度は少し乱暴な、がぶりと噛み付くようなキスをしてきました。私は恥ずかしくて苦しくて、けれど嬉しくて仕方がありません。また私ばかり満たされる。フェアじゃありません。私が溢れてしまう前に、もらった分の幸せを、ルフィにも返してあげたいのです。

「ルフィ」

名前を呼ぶ、小さく。自分の声があんまりに濡れた、というか、ルフィを渇望したような色をまとっていたことに自身で驚きました。これだけ貰ってまだ欲しいなんて。けれどルフィはすこぶる嬉しそうな顔。夢中で口づけを交わしているうち、私はルフィに押し倒されるように寝転がっていました。ルフィ。るふぃ。大切なひと。あなたを私で満たして下さい。

するりと服の中に侵入する、熱い手に気付くのは、数秒後。


please/20091231