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「どこにいくの?」

驚いて振り返ったら、彼女がいた。少し寂しげにしかめられた眉に、咎められているような気分になる。黒い瞳は探るように僕を見ていた。探るっていっても、疑い、とは少し違う。彼女の、…それは、

「…いきませんよ?どこにも」

じっと彼女は動かない。けれど、固く握りしめられ、震える彼女の小さな手を見るなりすべてを悟った。もともと遠くなかった彼女へひとつふたつと近寄り、両の腕で、包んでやる。シャツ越しの背中がしっとりと濡れていた。

「走ってきたんですか」
「だって」
「…うん」

わかってる、と答えるように力を強くした。彼女はひどく怖いのだ。それと同時に、目を逸らせないことを知っている。こちらが抱きしめても彼女が僕に同じようにしないのは、そういうことだ。

「知ってるわ。ずっと一緒に居られないこと」
「でも終わりは、今じゃ、ないよ」
「だけど、いつかは、」

ああ、本当に心配をするのが好きなんだ君は。いつか、なんて、いつだっていうんだ?
黙っていたら不安そうに見上げられて、何も言わずに見つめ返したら、彼女は泣き出しそうな顔でくちびるを噛んだ。少しだけ動揺する僕の内心を知ってか知らずか、ぱっと腕を払われたかと思うと、ぎゅうと手を、強く握られる。ふわりと温かかった。二度と離れなくていいと思った。それが叶わないことを、知っているくせに。結局僕も「いつか」を恐れているんだ。

「ずっとふたりでいようよ」
「………」
「ずっと、ずっ…と…、」
「………」
「っ…ねえ…」
「…そうですね、ずっと」

語るには恐ろしすぎる未来だ。解らないふりをするのに必死で、彼女の頬には涙の筋がいくつもできていた。堪えきれずにちいさく口づけたら、逆効果みたいだったようで、とうとう彼女は肩を震わせて泣き出してしまう。

「だいすきよ」
「僕なんて愛してるけど」
「はずかしい人」
「じゃあ、すき」
「私は愛してる」

繋いだ手がほどけるのなんてすぐ先の話だ。ひとりで歩かなくちゃいけない道が、もう目の前にあるのなんてとっくに解ってる。だからせめて、その時まであなたを愛させて。


//20090915/BGM;Alice
すごく久々。感覚が掴めない。