log | ナノ

「…あの…」
「うるさい黙って」

戸惑いに洩れた僕の声は即座に一蹴され、そのあまりの理不尽さに僕は眉を潜めた。ぎゅう、と更にしがみつかれ、胸に耳をおし当てられ、やむを得ず速くなる鼓動。突然の行動に出た彼女に狼狽し、降伏の形を取ったこの両手を、その背に回しても良いのか否かは大いに迷うところである。明らかに速い心音に気付いたか、彼女が視線だけでこちらを見上げてきた。思わず目を逸らすと、ねえ、と彼女が唐突に呟いた。


「…何ですか」
「世界の平和が、私たちの幸せなのかな」
「、え?」

どくんどくんどくん。それはあまりに静かで、否定的な問い掛けだった。あい変わらず僕を串刺し続ける眼差しと向き合えないまま、僕は渇き始めた喉に無理矢理唾液を押し込めながら答える。


「そう、…ですよ。だって、伯爵がいなくなれば、僕らはもう戦わずに済むでしょう?誰も死なない。誰も泣かない。僕らだって、何の心配もなく恋愛出来るし、結婚だって「ねえ」

二度目のそれは氷に酷似していた。冷たくて鋭くて痛かった。聞きたくないと。言わんばかりに。こんな彼女は見たことがなかった。何かに気付いて絶望してしまったような、そんな君を。戸惑い震える僕の心臓。


「戦争が終わったら、イノセンスはどうなると思う?」
「……そんなこと、考えたこともなかった。そうですね…イノセンスって神の結晶だから、やっぱり神の元へ帰るんじゃないですか?消滅、とか、」
「そうね。私もそう思うの」

また強くなる腕の力。どくんどくんどくん。ねえ、どうしてそんなに震えているの?何を怖がっているの?僕らが向かっているのは、幸せな世界でしょう?二人で暮らせる平和な世界でしょう?ああどうして、こんなにも鼓動が、近、


「じゃあ、アレン」

「イノセンスが生かしているあなたの心臓は」

どうなると 思う ?

( ――― ドク ン )

鼓動

//20090112
実際のところどうなんでしょう