「アーレンくん!」
ひよ、といきなり目の前にヒロインの顔がアップで現れたものだから、危うく頬張っていたみたらし団子に噎せそうになった。慌ててごくんと全て飲み込んで、ぜぇっと息を吐き出し彼女を恨みがましく見上げる。
「…帰って来てたんですか」
「ついさっき。ハズレだったんだけどね」
これもらってもいい?と許可を求めたのは口先だけで、ヒロインは僕の前にあったみたらし団子の山からひとつそれを取り、僕が何か言うより早くぱくりと口に含んだ。
「やっぱり帰ってきたらまずジェリーちゃんの料理だねー」
「勝手に食べないで下さいよ僕のみたらし!」
「もうケチケチしないのウォーカーくん。そこまで言うなら返すよ、ほら」
差し出されたのはかじりかけの団子。そんなの間接キスじゃないか!と僕は勢いよく顔を背けた。
「いりませんよ食べ掛けなんてっ」
「はあ。男心は解りませんねぇ」
ヒロインは残りをさっさと食べてしまうと、机に頬杖をついて僕を眺めてくる。視線がくすぐったくてなんだか猛烈に恥ずかしくて、顔が赤くなる前にと彼女を睨み付けた。
「…何ですか。居心地が非常に悪いんですが」
「いや。アレンくん見てると帰ってきたなぁって感じがするの」
「はあ?どういう意味です」
「そのまんまだよ。なんかほっとするっていうか、癒されるっていうか」
そんなことを平気で口にするヒロインと、その言葉にまんまと惑わされてときめいてしまう自分の心臓が強烈に恨めしい。へらへらと緩い笑みを浮かべたその顔をなんとか歪めてやりたくて、彼女の頬を摘まんでむにっと引っ張ってみたが、可愛さは俄然健在ときたものだからもう絶望的。
「あいたたたっ、な、なにひゅんのあれんくんっ」
「…いえ、なんとなくムカついたんで」
ぱっと手を離したらヒロインは「酷いなぁ」と痛そうに頬に手を当てた。すこし赤いそれを自分がやったのだと意識して、嬉しくなってしまう僕はもう本当にどうしようもない。ヒロインに惹かれてるなんて絶対に認めたくないのにしかし、惹かれない理由が見付からないのが腹立たしかった。苦し紛れにプイと顔を逸らして言う、
「…あなたなんて大嫌いです」
「私はそうでもないけどね」
ああもう、無理、かも。
ドルチェピンクの深海に沈む/20081212
ツンデレアレンって萌えませんか