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好きだって気持ち伝えたら、止めてよってはっきり拒まれて、少なからずショックだったんだ。彼女ははじめ凄く、凄く驚いた顔をして、それから顔を真っ赤にして口を手で覆ってしまったから、この反応ってもしかしたら両想いなんじゃないかなって思った。それでは何故僕はフラれたんだ。そこまで顔に出しておいてそんな矛盾しまくりの返事、僕に寄越さないで下さいよ、訳がわからなくなるでしょう。

「待って!」

逃げるように背を向けた彼女の手首を掴んで引き止めたら、痛そうな声が聞こえてきて、僕は慌てて手を引っ込めた。思い余って力を入れすぎた。見下ろした自分の手のひらは微かに震えている。らしくもなく、動揺、してるんだ。
もう君は離れようとしなかったけれど、自分の手首を握って俯き、こちらを向いてはくれない。僕は唇を噛んで、今度は慎重に、彼女の丸い肩に手を置いた。ビクッと跳ねる、その反応は予想内だったので、僕はそのままゆっくりと彼女をこちらに向けさせる。驚いた。やっぱり頬は熟れたりんご色で、その目は、泣き出す寸前まで潤んでいた。

「…んで…?」
「え…」
「なんで…そんなこと言うの」

なんで、と先に疑問を紡いだのは、僕ではなく彼女の唇だった。すぐには思考が追い付かない。問われた理由が解らないのだ。

「なんでって…好きだから好きって言ったんですよ」
「どうして私を好きになんかなったの」
「、は?な、なんですそれ…」

一瞬試されているのかと思ったが、彼女の目を見て間違いに気付かされた。彼女の「どうして」は疑問ではなく、非難だ。問われているのは、何故『彼女』を好きになったかでなく、何故彼女を『好きになった』かであった。

「私ね、ずっと、一生傍に居てくれる人を愛したいの」
「そんな、の…僕が」
「本当に?貴方は死なない?毎日のように命を危険に晒しているアレンは、私をひとりにしないって約束出来る?」
「…僕は死にません」
「根拠もないこと言って期待させないで」

彼女の口調は淡々としていたが、聞いていて胸が張り裂けそうになる。切ない、こんなに切ないことってない。だってまるでそれ、君も僕のことが好きって、言ってるみたいだ。それを必死に、必死に、塞き止めて押し殺して、我慢してるみたい。

「失うなら欲しくない。一時の幸せなんて要らない。最後は必ず来るの、そのときはどちらかが傷付くんだよ」
「……!」

トン、と手で胸を叩かれて再度突き放された彼女の体。それを拒むように、僕は反射的にその身体を腕に捕まえて閉じ込めた。びくっと跳ねた体はもがいて、僕を遠ざけようとするけど、ここで彼女を離してはいけない気がした。ぎゅっと更に抱き寄せて、首と肩の間に頭を埋める。

「っ…馬鹿じゃないの…ッ」
「…馬鹿は貴女だ。何、未来のことばかり心配して怖がってるんですか」
「そうならざるを得ない世界で生きてるからよ、」
「いつか消えるなら今感じたい。消えないように守りたい。守りたいものが出来ることは、生きる理由が出来ることでしょう?」

未来に続く道が霞んでいるからこそ、僕らは戸惑っちゃいけない。永遠が不可能なら現在を、願わくば終焉を共に。だってどう足掻いたって、僕たちは聖職者なのだから。ぴたり、と彼女の抵抗が止んだ。

「…どうして…アレンは、私は、どうしてエクソシストなの…っ?」

答のない問であった。細く震える声で呟いたあと、彼女の、僕を拒み続けていた腕が背中に回る。消えないでと、置いていかないでと、じわり、濡れていく胸元を感じて目頭がぴりぴりとして、僕はそれを誤魔化すように腕に力を込めた。君はもう、逃げなかった。

「僕は貴女の為に生きます。貴女を守る為に帰ってきます。だからどうか、受け止めて」

君の顔は見えなかったけれど、小さく頭が縦に動くのだけ解った。怯えたように体を震わせる、彼女の背中を幾度となく撫でながら、僕はただ祈った。麗しき光よ、儚き願いよ、この愛にご加護を。


レーゾンデートル
絶望に満ちたこの世界に、あなたさえいれば、私はまだ戦える。

//20081123
「hallelujah」様へ愛をこめて
( many thank you D.Gray-man animation. )