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「嘘吐き」

面と向かって言われた言葉に、僕はどくんと心臓を打ち、彼女に微笑みかけた顔が固まった。言葉の意味を理解するのにまた数秒を要する。嘘吐き。ウソツキ。頬が引きつる。

「…何 が?」

やっと絞り出した言葉がそれ。無理矢理作った笑みと同様、上手く繕えたとは到底言えない、がたがたとした余裕のない声。いやむしろ、動揺を隠しきれていない声、の方が正確に表現出来ているかもしれない。

「全部。アレンの口も、手も、足も、心も」

背中がぞくりと寒気立つ。こちらを真っ直ぐ見詰める責めるような瞳が、僕を震え上がらせた。馬鹿な。

「…は、はは。何を言い出すかと思えば、僕の全部が嘘?じゃあ僕は何だって言うんです?」
「違う、そうじゃない。アレンは本音を隠してばっかりってこと」
「…ほん…ね?」

そ、と彼女の手のひらが僕の頬に触れ、僕は堪らずびくりとした。トンと一歩後ずさるけど、左腕をぐっと掴まれ阻まれる。

「ねぇ言ってよ、アレンが思ってること」
「…僕が…?」
「何がしたい?何をされたい?言ってくれなきゃ解んないでしょう」
「…言えませんよ、」

こんなにも浅ましく愚かな自分を、寄りによって君に見せろと言うの?僕が弱々しく首を横に振ると、彼女は歯痒そうに顔をしかめて、僕の腕を握った手に力を込めた。

「…そんな、泣きそうな顔をしているくせに」

俯く彼女のつむじを見詰めながら、それはどっちだと思った。しかしその顔がふっと僕を見上げたと思ったら、急に手が伸びてきて、ぎゅうと、僕の左頬をつねったのだ。

「っ!?」

口は変な形に引き伸ばされているのだろうと思う。驚いて目を見開いたら、彼女は怒ったように、それでも僕のそんな表情がおかしそうな様子で言った。

「遠慮されるのは大嫌いよ」

―――ああ。彼女はもう知っているのか。

ゆっくりと手が離れる。僕はクスリと穏やかに微笑んでから、まるで奪い取るように彼女を抱きすくめた。彼女の呼吸が一瞬止まる。

「あなたを見ると胸が痛くなります」
「…ん」
「あなたが居ないと切なくなります」
「うん」
「君と話すのが楽しくて堪りません」
「そう」
「叶えばあなたの隣は僕でありたい」
「ええ」

名前を呼んで欲しい。もっと触れていたい。もっと触れられたい。君と一緒に戦いたい。君と一緒に生きたい。君と一緒に死にたい。心の隅にいっしょくたに押し込んで、ぐちゃぐちゃに絡まっていたそれが、言葉にする度ひとつずつほどけていく。すると最後に残っていたのは、拍子抜けするほどにシンプルな答だった。

「あなたが好きです」

彼女は口を三日月のようにして笑うと、僕の肩口に額を当てた。

欲望

(目が合う度に顔が熱くなる。あなたが怪我をすると私まで痛くて仕方ない。どうやら私も好きらしいわ、アレン?)

//20081028
溺愛アレンと余裕ぶるヒロイン