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( それはとある日、任務帰りのお話 )



がたたん、ごととん、リズミカルに汽車が揺れて、彼の雪のような白髪もまた、私の目の前でふわりふわりと踊ります。私と彼の体以外に揺すられている、コンパートメントの半分を占領する食料の山を、私はおずおずと見詰めました。

「…あの、アレンさん」
「んぐ、…はい?あ、食べますか?」
「い、いえ」

私は首を左右に振って、再び沈黙しました。今は口をジャム入りスコーンで一杯にして、しかしその手には今度はフライドチキンが握られています。本当によく食べるなあと、知らずまじまじ見ていると、スコーンを胃に押し込んだアレンさんが、少し気恥ずかしそうに言いました。

「そんなに見詰められると照れちゃいますよ」
「え!あ、いや、ごめんなさい」
「いいえ。気持ちは解ります。僕、燃費が凄く悪いんですよね、ほんと」

フライドチキンをぱくりと食みながら、アレンさんは肩を竦め眉尻を下げたけれど、ちっとも困ったようには見えなくて、むしろその顔は幸せそうでした。本当に食事が好きなのだなあと、私の顔も思わず緩みます。するとアレンさんは呆気に取られたような顔をして、私を見たままチキンを美味しそうにくわえていた口も動きを止めてしまいました。どうかしました、と首を傾げると、アレンさんは二、三度瞬きして、それから何も言わずにまたがぷりとチキンをかじりました。

「そんなに食べて太ったり、お腹壊したりって、アレンさんはしませんよね」
「え、ええ。食べた分は鍛練と任務で消化できますし、元々この大喰らいってイノセンスの影響らしいですからね。それなりに対応した体に出来てるみたいで」
「好き嫌いとか…」
「ありませんよ。少なくとも今まで食べてきた料理は」

ほっぺを少し赤くして、アレンさんは笑います。私もなんだか暑い気がして、手うちわで顔を扇ぎました。この車両、まだそこまで寒くもないのに、暖房がちょっと効きすぎです。

「僕、エクソシストじゃなかったら、ピエロかグルメ評論家になってたかも」
「そんなにお好きですか?食べることが」
「ええ、そりゃあもう」

アレンさんがきらきらした目で無邪気に頷きました。つい、可愛い、と思ってしまいました。失礼と思いながらも顔を背けてくすくす笑っていたら、アレンさんはきょとんとして、それからばつが悪そうに「何か変なこと言いましたか?」と言います。私は頭を振りました。

「いいえ、あんまり楽しそうに話すから」
「え…あ」

小さく頬を掻きながら、アレンさんが苦笑します。笑ったりしてごめんなさい、と私が言うと、彼はそっと否定の仕草をしながら言いました。

「でもやっぱり嬉しいんです。あなたとこんなに話したの、初めてだから」

穏やかな彼の笑顔が、私の体をぱあっと温かくしました。私は何度かぱちぱちと瞬きしてから、自分の団服のコートをぎゅっと握って、上擦りそうな声を絞り出しました。

「…こ、今度、私の料理、ご馳走させてくれませんか?」
「え!いいんですか!?」
「え、ええ…あんまり上手ではないんですけど…」
「いえもう、嬉しいです、是非!楽しみだなあ…ああほんと、凄く楽しみ」

アレンさんはうわ言のように言いながら、更に勢いよく今度はサンドイッチに食い付きました。これは沢山作らなきゃいけないなぁ、と近い未来を思いながら、私は彼のそんな様子を終着駅まで見守りました。


美味しい約束

//20081005