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※ 現代パロディ。


アレンくん、アレンくん。無邪気に僕の名前を呼ぶ彼女の笑顔は、太陽というよりはむしろ、星のようだと言った方がそれらしいと僕は思う。ぱっと眩しい光じゃなくて、見る者みんなに優しくきらきら瞬いて、何も言わずにすべて受け止めてくれる。
そんなことを真剣に君に語ったらきっと照れて耳を塞いでしまうんだろう、だから心の中でこっそり呟くだけにするけれど。
ねえねえ、アレンくん。焦れたように伸びてきた指先を絡め取って、ほとんど無意識に微笑を浮かべながら僕は漸く返事を寄越す、はい、なんですか。

「今日、部活、ないんでしょう、一緒に帰れるんでしょう?」
「ええ」
「あのね、昨日あたしケーキを焼いたんだよ。良かったら味見してくれないかな」
「うわぁ、今度はケーキですか。味見は構いませんけど、他の男性へのプレゼントならあまり気は乗りませんねぇ」
「う、もう、アレンくん」

眉根を寄せる彼女に、僕はくすくすと笑い返した。
すみません、分かってますよ。一人暮らしの僕を気遣ってか、あなたはよく手作りのお菓子を差し入れてくれる。私が好きでやってることだからと、迷惑だったら遠慮なく言ってねと眉を下げて笑う君は、僕がその贈り物をどれだけ嬉しく、愛おしく思っているか、まだ気付いてはくれないらしい。

「迷惑だなんて。あなたが作って下さるものは、全部美味しくて大好きですよ」
「本当に?」
「嘘を吐いてどうします?」

そう言って微笑むのと、遠くとおくの方で予鈴が鳴るのとでは同時だった。二人だけの空間をーーと思って浮かれているのは僕だけかもしれないけどーーわだつそれが少しだけ恨めしかったのに、楽しみが出来た放課後へのカウントダウンにも聞こえるそれにまた嬉しくも思ってしまったことは、何となく恥ずかしかったから、教室に戻るふりをして君と手を重ねることで誤魔化しておくことにしよう。


甘い日常の切り抜きをひとつ/20180401