log | ナノ

揺れる揺れるハイビスカスは、まるで太陽に焼かれたように赤く。それとは対照的に澄み渡ったロマンスブルーの海は、幻想的に揺らぎ輝き、美しいと以外に形容しようもない。そのあまりの眩しさに私は一度強く目を閉じ、遠く近く聞こえてくる波の声に耳をすませた。

「お一人ですか?お嬢さん」

はっと声がした方を振り向こうとしたら、ひたりと右頬に冷たい物が押し当てられた。驚いて手を遣れば、氷のように冷えたそれがするりと手のひらに滑り込んでくる。オレンジ色のジュース缶。

「…気が利くね」
「それほどでも」

大きなパラソルの下、私の隣に腰を下ろしたのはアレン君だった。青の海水パンツに白いパーカーを羽織って、太陽みたいに輝く銀色の髪はぽつぽつと水を滴らせ、彼の赤い頬の傷痕や白くも広い肩を濡らしている。

「泳いできたの?」
「ええ、凄く気持ちよかったですよ。ヒロインはさっきからずっとここにいますよね」
「あ、海は、ちょっと…」
「泳げないの?」
「泳がないの」

日除けのために被った麦わら帽子の縁をぎゅっと握って、私は目を細めつつ青い空を見上げる。雲ひとつない快晴で、憎らしいほどに晴れ晴れと、それは私を見下ろした。

「私日に焼けるとね、肌が真っ赤になるの」
「へぇ、それは。…見てみたい」
「そういうことさらっと言うよねアレン君って」

じゃあこれ、いただきます。プシュッとジュースのタブを開けて肩程までに持ち上げると、アレン君は既に口を付けていたレモンサイダーをカシンッとぶつけて、どうぞ、と微笑んだ。こうやって見ればアレン君って、ほんとカッコいいんだけどなあ。


りりん。波が打ち寄せは引いていく音の間を縫って、どこからか風鈴の声がする。喉を滑り落ちていくオレンジの味は、彼から貰ったものだと意識する度ほんのりと甘い。水面で跳ねるビーチボールをのんびり眺めていたら、私の視界から少しだけ外れたところから声がした。白く白く美しい浜辺に転がっている大きなスイカと、それを囲むのはリナリーとラビ、神田。科学班の人も何人か居る。

「ヒロイン、アレン!スイカ割りすんぞー!」
「今行きます!」

ごくんっ、と残ったサイダーを飲み干して、アレン君は口元を手の甲でぐいと拭いながら立ち上がった。

「ほら、ヒロイン」
「…私は、」
「ずっとここに居ても退屈でしょう?」

そうにこりと笑ったアレン君は羽織っていたパーカーをばさりと脱ぐと、私の肩にそっと掛けた。

「これなら日には焼けないよね」
「あ…、」
「早く来ないと、スイカ全部食べちゃいますからね!」

ざっ、と裸足で砂浜を踏み締め駆けていく彼の後ろ姿に、私は数秒呼吸を止めていた分ひゅっと酸素を吸って、熱くなった胸元を堪らず掻き抱く。動悸、動悸、動悸。頬が顔が身体がこんなにも熱いのは、顔がおそらく真赤であろう事実は、夏の陽射しのせいではないのだと、私はもうとっくに気付いていたのかもしれない。



初恋を謳うサマンサ

それは一夏の恋物語


20080721
企画「初恋を謳うサマンサ」様へ愛を込めて