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「嘘、…嘘よね。うそ、でしょう」

目に痛いほど真っ白なベッドのシーツには、皺一つよってはいなかった。その上で静かに静かに、そう、呼吸すらせずに眠っている彼の青白い唇を見詰めながら、私は強張る喉を強引に動かしてなんとかそれだけ呟いた。

私が教団を離れた一週間前だって、この人はぴんぴんしていたではないか。
…いや、違う。風邪を拗らせたとこのベッドに今と変わらず倒れ伏して、彼らしくもなく弱々しく息を吐き出していた。それを私はいつものように馬鹿にしてからかって、彼だっていつものように生意気に言い返してきたから、私は心配を抑えて任務へ出てきたのよ。

それなのに、どうして?


『やっほーユウ! 私これから任務なん、…あれ、どうしたの』
『るせ…っげほ、』
『まさか風邪? へえ、馬鹿は風邪ひかないのにね』
『だまれ、ってんだ、ろ』
『…大丈夫なの、息上がってるわよ』
『は、お前が心配なん、て、きもちわり…』
『な! あっそう、じゃあもう心配なんてしないわ。ユウなんてそのままくたばっちゃえば!』


それが最後の会話だった。まさかそれを真に受けた訳ではないでしょう?あなたに言った最後の言葉が「くたばっちゃえ」だなんて。

ねえ、ユウ? ほら、早く目を開けて私にお帰りって言ってよ。そう口の中で呟きながらその雪みたいに白い頬に触れたら、本当に雪のように冷たくて、ああこの人はもうここには居ないのだと悟ったわ。ユウは風邪なんかじゃなかった。命が削られすぎて、とうとうそれが尽きてしまうときがきたのだ。

最低よ。ユウも私、も。どうして私が遠くにいるときにいっちゃうの? どうして最後の言葉があんなに可愛くない憎まれ口なの? 元々ユウが長生き出来ないことは知っていた。それでもまだユウは未成年じゃないか。戦争だって終わってない。それに、私は。私はまだ、ユウのことを何も知らない。ユウに何も言ってない、のに。

ぱた。シーツに落ちて小さな染みを作った、その透明な液体が何なのかすら私には解らなかった。ただ空っぽの私の頭の中にあったのは、ユウが死んだ、そんな残酷すぎる真っ黒な事実だけ。

膝から崩れる。温度のなくなった手。シーツを握り締めると、整っていたそれはあっという間にくしゃりと乱れた。

「ユウ、ゆう ユ う、ゆウ、ゆ うユ…ユ、ウ」

ねえユウ

すきだよ



(神様はいないのね。ばいばいすら言わせてはもらえなかった)

20080314
幼馴染ユウ&ヒロイン