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ピンク色でとても可愛いお花があったから、そっと手のひらで包んで握りつぶした。ぱりんと割れ砕けたピンク色でとても可愛いお花は、開いた私の手のひらの中で小さなガラスの破片みたいにきらきら光っている。親指にくっついたピンク色でとても可愛いお花の残骸を、ぺろりと舌で舐め取ってみる。がりがりと奥歯で噛み潰したけれど、何の味もしなかった。ピンク色でとても可愛いお花の緑色の葉っぱを毟ってそれを犬歯で噛み切った。やはり無味だった。「甘い」や「苦い」を知りたかった私は、解っていたことでもやっぱりがっかりした。

今日の空は白かった。昨日の空も白かった。明日の空も白いんだろう。朝も夜もミルク色。私の腕と同じ色。私はいつも同じ、赤くてひらひらしたワンピースに、おそろいの先の丸い靴。固くて冷たいベッドで眠るし、お湯の張られていないバスタブに浸かるし、からっぽのティーカップに口づける。お城みたいに大きな家に一人で住んでいる私はたくさん愛でられて、丁寧にブロンドの髪を梳かし付けられて、私の大きくて青い瞳をみんな、可愛い、綺麗と言ってくれる。少しだけ嬉しいような気がした。


「おまえがヒロインか?」


そこにいたのは男だった。真黒いの髪が、白い蛍光灯の下でつやつやと眩しかった。少年のような容姿に黒のスーツを着こなす彼の格好は、ちぐはぐなどころかなんともいえない色気があって、私とはまるで違う形の体に魅入られる。素敵、と頭の中だけで呟いた。私よりはいくらか背が高かったが、巨大な女の子たちと比べてしまえば、彼は明らかに私と同類なのだった。久しぶりの「仲間」だった。私は彼に手を伸ばして、スーツの袖の上から男の腕を掴んだ。不思議そうに首を傾げる彼の手を引き寄せる。白い手だった。私と同じ色だった。ピンク色でとても可愛いお花みたいに脆そうなその手のひらを両手でそっと握りしめる。そして力いっぱい握りしめる。ぱりん、と壊れるはずのそれは、一瞬後に私より何倍も強い力で私の手を握り返してきた。私は驚いて悲鳴を上げた。今まで私が壊してきた子が上げたような、ひ、とかいったか細い悲鳴だった。おれは、ルフィ。そう名乗った男は、不敵な笑みをその瞳に浮かべて、これからよろしくなと私に甘く囁いた。体が震えたように思った。彼を壊そうとした私の指には、小さなひびが入っていた。私はその手をそっともう一方の手のひらに包んで隠した。小指の一本でも欠けたら、前までここにいたお友達のように外の世界に棄てられてしまうのを知っていたからだ。

冷たい手を頬に感じた。さっきの猟奇的な瞳が嘘のように、その笑顔は無邪気な少年のものになっていた。私はこの人に壊されるんだわ。恐怖と狂喜をかき混ぜたような気持ちになって、その時は彼も道連れにしてあげましょうと、私は甘く笑うのだった。


DOLLS/20100429
人形ヒロインとルフィ