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「…アレン…」

困ったなあ。目の前で大好きな人が、目を真っ赤にして泣いている。上擦った声で、僕の名前を呼んでるのに、何度も何度も僕を呼んでいるのに、答えてあげることができない。

「アレン、ねえお願い、アレン、だめ、あ…れんっ…」

ぱたりぱたりと落ちてくる、その涙さえ温かい。泣かないでよ、僕は君の笑顔がとても好きなのに。そりゃあ泣いている君だって可愛いけど、この動かない手じゃ、その涙を拭ってあげることも出来そうにないから。

「…ごめんね」

違う、伝えたいのはこんな言葉じゃない。けれど口を開いて、なんとか転がり出たのはこれだけだった。
側にいられなくてごめんね。嫌いだって嘘が吐けなくてごめんね。君が傷つくって解ってて、愛して、ごめんね。

どうして好きになってしまったんだろうと思うのを上回って、好きになれて良かったと思った。こうなる前に彼女を突き放せなかった自分を悔いる思いより、彼女と恋をして確かに幸せだった記憶に愛しさが募った。
僕がいなくなってから彼女はどうなるんだろう。勝手な願いだけど、しあわせになってほしい。

すきだよ。だいすきだ。そう言ったつもりだったけれど、音にはならなかった。それでも君には解ったようで、鼻をぐすぐすと啜りながら、あたしも好きだよ、なんて無理にでも微笑んでくれるんだから、それだけで僕の人生は捨てたもんじゃなかったなって思えるんだ。

「死なないで…アレン…しなないで…」

―――…変なこと、言う、なあ。僕が死ぬわけないじゃないか。ただ今は少し眠いだけ。ちょっとだけ寝かせてくれるかな。ああそうだ、イノセンスはコートの内ポケットに入っているから、僕の代わりに持っていって―――

ゆっくりとまぶたが落ちる。君の悲鳴のような声は、もう手を伸ばしても届かないくらい遠くから響いている。温かい何かに抱きしめられた気がした。それがあんまり優しすぎて、ひとつだけ零れた涙が冷たい頬を滑った。

例えいつになったって、どこにいたって、僕はずっと君を好きなままだよ。もしも僕が目覚めて、別の場所で、別の時間に、別の形で逢えたら、今までの100倍好きって言って、100万回以上のキスをしたいなあ。ねえ、待っていてくれるだろう?


それまでおやすみ/20100426