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腕の中でもぞもぞと、抱いた温もりが身じろいだのに気付いて、目が覚めた。薄く目を開けて、ぼやける視界の焦点を合わせようと瞬きを一回、二回。

「んー…ん…」

掠れた、甘い声。背中に回った小さな手の平が、シャツを握ってシワを作った。ようやくはっきりと見えたのは彼女の豊かな明るい髪。そっと頭に手を乗せて、その柔らかい髪に指を差し込んだ。気持ち良さそうに零れる吐息。

「ヒロインちゃん? 起きたのか…?」

問い掛けても応えは返って来なくて、ヒロインは額をぐりぐりと胸に押し付けてくるばかり。ああ、寝ぼけてる、と理解した途端に唇の端に微笑が乗った。

「ヒロインちゃん、朝」
「ん…? うん…」
「うん、じゃなくて」

目を開こうとしないヒロインの頬を両手で押さえ、上向かせてキス。あー、ふわふわ。

「ほら、はやく起きなきゃ食べちゃうよ」
「んっ…む、う」

唇を重ねる時間を、触れる度に一秒ずつ長くしていく。苦しそうに首をよじるヒロインの、瞼がやっと開いた。

「――――」
「おはよう、お姫様」
「……は、よ」

眠たそうに目を擦り、噛み殺し損ねた欠伸でおかしな形に開く彼女の唇。とろんと潤んだヒロインの瞳をあと一秒直視していたらヤバかったかもしれない。朝っぱらからどこからともなく沸いて来やがった煩悩やら邪念やらと戦いながら、まだ覚醒しきっていないヒロインの額に自分の額を寄せた。こつん、と骨がぶつかる軽い音がする。乱れた彼女の前髪がはらりと更に変な方向へ流れた。

「んー…おなかすいた…」
「は、起きた途端それか? どっかのゴムみてぇだな」

彼女の右耳の少し上でぴょんと跳びはねている寝癖を指先で弄びながら、オレは小さく笑っていた。白い朝陽。埃がきらきらと宙を踊っているのが見えた。

「おいしそうなにおい…」
「…デザートかな。君が大好きなシフォンケーキを、焼いてるよ」
「わぁ…い…、ふあぁ…っ」

今度は遠慮のない大きな欠伸と、同時に洩れる上擦った声。ぎゅうとオレに擦り寄ってくる君はさながら猫のようだ。白い頬っぺ。睫毛がゆらゆら、眠気を誘うように揺れている。

「コーヒーでも入れてあげる、起きてキッチンに行こう?」
「うん……お砂糖ふたつ、」
「知ってるよ、お姫様」
「ミルクも、」
「スプーン1さじ…心得ています」

くいと顔を上げた、彼女の瞳がぱっちりと開いてオレを見上げた。どうやらようやく目覚めたらしい。白いシーツ。二人分の温もりの移った布団が、しゃらしゃら擦れて肩から滑り落ちる。

「おはよう、サンジくん」
「…ああ、おはよう」

白い朝の世界で可愛く笑う彼女。そんな顔も出来たんだなんて、こんな新たな発見があるなら、少し遅く起きる今日のような朝もたまには良いかな…なんて。


しろい朝の眠り姫/20100315