log | ナノ

ふわふわふわふわ、歩く度に綿菓子のように揺れるゆるい癖のある髪。ほんのりとピンク色をした頬はマシュマロみたいで、いつもうるうるした瞳は飴玉。紅の引いていない唇は桜より少し赤み掛かっていて、触れたらふにふにに柔らかそうなそれは、…―――

「…何かついてる?」

ぺたり、と自分の頬に片手を当てるヒロインに、初めて、自分が彼女を無遠慮に見詰めていたことに気付いた。レディに対してなんたる無礼。けれどオレは謝罪も理由も口にせず、ましてや肯定も否定もするわけでもなく、ぐ、と距離を縮めてヒロインの顔を覗き込む。彼女は不思議そうに首を傾げた。

「…美味そう」
「あら、そ… はえ? わっ…サンジくん! サンジくん!?」

あ、と口を開けながら呟いてヒロインの片手に両手を掛けると、彼女は一度のほほんと相槌を打ちかけて、びくっと目を見開いた。制止はきかない。
かぷ。ヒロインの首筋にあまく噛み付いてみると、ふわりと優しい匂いが鼻孔を撫でた。柔らかくて、熱い。舌を押し付けた皮膚の下で、とくとくと頸動脈が息づいている。

「ひえ…サン、サンジくん…っ?」

ヒロインは戸惑った震える声を出す。零れる吐息は熱っぽくて、図らずとも官能的だった。一度口を離すと、はあ、と安堵のため息を彼女が吐いた。俯いた睫毛が恐る恐るオレを見る。きらきらした目がオレの奇行を訝しんでいた。

「ど、どうしたの? 怒ってるの?」
「…や、全然?」
「う…うーん…? 、っひや」

混乱するヒロインを置いてきぼりにして、がぷ、と頬を噛む。マシュマロのようにやはり柔らかい。ヒロインの香り。あまい香り。くらくらする、食いた、い。

「堪んねェ…」
「へ? …っん!」

小さく開いた唇を舌先でなぞって、怯んだそこに口づける。滑り込んだ咥内で震えていた舌を捕まえて搦め捕り吸い上げる。溶けるようだ。蜂蜜のジュレ、ラズベリージャム。彼女を以ってすれば、世界一のデザートが作れることだろう。
分かってる、おかしなことを考えてるということくらい。けれど、彼女を堪らなく愛しているこの心と、料理人としての本能がそう思わせて止まらない。

人に食わせる為ではない。
オレだけのキャンディードール。

「好きだ、ヒロイン」
「あ…、」
「食っても、いい?」

潤んだ飴玉がオレを見て、マシュマロが赤く色付いていく。

「…わ、わたし…」

ああ、困らせてごめんな、でも返事を待つ時間も惜しいみてぇだ。

愛の囁きで少女は色付く。オレだけ見て、オレだけ愛して。残さず食べてあげるから。


candy doll/20100131