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もくもく、ふわふわ、浮かぶ雲のベッドに寝転がって、今日も私は下を見下ろす。青、青、美しいロマンスブルーにぽつぽつと散らばる、ビーズのような点。それらはたまにぶつかって赤く燃え上がり、それらはたまにぐるぐる回って、青の中に消えていく。ああ綺麗、ああ楽しい。

「あ、みっけ」

かぷ、と大きなペロペロキャンディをはさんだ唇を、私はニィとほころばせた。青に映える赤いベストに、風に心地よさそうに靡く黒い髪。貴方を私が毎日見下ろしていること、気付いていないだろうね。

「ねえ? Luffy、」

言葉にしたそれはなんて甘い響き。がりん、噛み砕くキャンディの艶やかなオレンジ。

大きな船の先端に付いた、大きなライオンの頭の上が、彼の特等席みたい。自分の腕を枕にごろりと寝そべって、太陽を眩しそうに見ては微笑んでる。けれどしばらくすれば、すぐに瞼が落ちて彼はいびきを立て始める。ああ、今すぐここから降りて行って、その唇にキスをしたいわ。

強い貴方。明るい貴方。笑う、怒る、叫ぶ、貴方。あんな人間くさい男、私、見たことがない。魅力的でくらくらするわ。近づいておしゃべりがしたいけれど、私がそばに行ったら、食べられてしまうかしら?

さらさら、風の甘くくすんだ香り。きらきら、アラザンの星。小鳥はクラッカー製、飴細工のお花畑。お月さまがビスケットだって知っていた? 神様が齧ってしまう度に、私が新しく夜空に掛けかえているの。あれ、結構大きくて重いから大変よ。だけど、ここはとっても素敵なところ。貴方のそのながあい腕なら、きっと簡単にここまで来れるでしょ?

唇に塗った蜂蜜をぺろりと舐めとって、傍らに並べてある大きなクリスタルの瓶をつま先でつっついた。満たされた液体はシュガーシロップ、世界の雨の正体。一滴掬えば甘いのに、地上に降り掛ければすっぱくなってしまうの。なんてもったいないのかしら。

「貴方はまだしばらく、ここには来ないでしょうね」

つまらないわ、と呟いてため息を吐いた。この場所はどんな国よりも素敵な世界だけれど、それより何倍も魅力を感じる野望を彼は持っている。私わかるの、その夢を叶えるまで、貴方はここには来ないわ。来る気が、ないわ。それに、彼の大切な仲間が、彼を私の腕の中にやることを許さない。ちょっとだけ憎らしいけれど、それがちいさな人間の可愛いところね。

でもいいの。しばらくはここから眺めるだけで我慢できる。貴方は王になって、願いをぜーんぶ叶えてから、大事な仲間と一緒にここに来ればいいよ。かかったって所詮60年かそこらだわ、そんなちっぽけな時間、私にとってはちょっとうたた寝をしていればあっという間なんだから。


スイートシュガーシャングリラ/20100226
天使ヒロインのルフィ観察