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※「ハロー、恋する私達」続編


「ヒロインあったけーなーやわらけーなー」
「〜〜〜…っ」

ぎゅうぎゅうとヒロインを腕に抱いてご満悦なルフィと、されるがままで顔を真っ赤にして口が聞けない状態のヒロイン。晴れて念願の「コイビトドウシ」になり、ヒロインに抱きつく権利を手にしたルフィはもう好き放題。ところ構わずヒロインにじゃれつき、その度にヒロインは泣きたくなる程の恥ずかしさと、くすぐったいような嬉しさに頭を埋め尽くされるのだ。

「ルフィ…」
「おう!」
「あ、あ、あんまり、人目があるとこで、あの…その…」
「ん? 甲板じゃダメなのか? じゃ、アクアリウムバー行こう」
「えっ、え!? きゃっ、ルフィー!」

がばっと突然抱きあげられて、止める間もなくルフィは一階へと走った。甲板に残った風は芝生をゆるゆると揺らす。テーブルについて生ぬるい目でバカップル二人を眺めていたナミの視線は、手元で湯気をたてるコーヒーカップに落ちた。

「…平和ねぇ」




「ひゃっ、ルフィ…!」
「ここならいいんだろ?」

ルフィの膝に向かい合うように乗せられて、きゅ、と腰に回った腕で、もっとおいでと引き寄せられる。程よく暗いアクアリウムで、見上げてくるルフィの顔に心拍数が急上昇。結局、私だって羞恥という枷さえなければ、一日中抱きついていたいくらいにルフィが大好きなんだ。

「うん…」

ぎゅう、と初めて自分からルフィの首元に腕を絡めて抱きしめてみた。ぴく、とルフィの肩が跳ねて、しししっ、嬉しそうな笑い声が耳元で響く。

「安心した!」
「え?」
「おれが抱きしめたらヒロインいっつも固まっちまうだろ? 嫌なのかと思った」
「そっ…そんな訳ないよ! 恥ずかしいだけでっ、ほ…ほんとは嬉しいし…」
「ほんとか?」
「でも、あのっ、人前ではやっちゃダメなの!」
「…ムリだ」
「っ、」
「ヒロインにくっつきたいと思ったら、我慢できねぇよ」

顔から発火しないのが不思議なくらいだった。こんなストレートな愛を一身に受けて、もう、ルフィで容量オーバーだ。なんて答えればいいのか考えあぐねていたら、頬をくすぐっていたルフィの黒髪がふいと離れて、かくりと曲げた首、私を覗き込む顔。

―――あ、

「ヒロイン」

ルフィの左手が私の頭に触れて、ぐっと引き寄せられた。ちゅ、と合わさる唇、閉じた瞼の裏側で火花が散る。どくん。どくん。くっついた胸から伝わるルフィの鼓動が速くて驚いた。私と同じ速度で呼吸する体。私の熱が移ったルフィの赤い顔。愛しくてもう一度口づけた。腕の震えを止めようとさらにルフィにしがみ付いた。触れるだけのキスは本当に一瞬で、けれど私たちにとっては永遠で、甘くて熱くて苦しくてうれしくて。こんな気持ち初めてでどうしたらいいのかわからないけれど、とりあえず私が好きでたまらないルフィのきらきらしたこの目を、逸らさずに見つめ返してみる。照れくさそうにはにかんだルフィが笑った。

「ヒロインとしたいこと、増えちまった」

今度は両手で頭を抱えられて、さっきよりも長いキスをした。細く開いたルフィの黒い瞳が熱を灯して私を見る。私はルフィの髪をくしゃくしゃと抱いて、うっかり涙が零れないように、ぎゅっと目を閉じた。


ステップラバー/20100105