並々と注がれた酒に、ひとひらの桃色の花びらが浮かんだ。
満開になった桜の木の下で飲む酒は、愛しい人を思い出させる。
隣りには小さなお猪口に注がれた酒をちびちびと口に運ぶ政宗。まあ、思い出させると言ってもすぐ隣りに俺の愛しい人はいるわけなのだがね。
「俺はさ、お前さんに一目惚れだったよ」
お猪口を口元に運ぼうとしていた手を止め、僅かに頬を桃色に染めた政宗が怪訝そうにこちらを向いた。
俺の恋人政宗は、そう酒には強くない。これはなかなかに意外な事実で、俺も楽しく酒を飲んでいるところばたりと倒れた政宗には度肝を抜かれた。
自他共に認める酒豪の俺と酒を交わして無理をさせるなど言語道断だ。また無理をさせていつ政宗に恥をかかせるかわからない。
「ふん……一目惚れの相手をあれだけ殴るか、普通」
「え!?いや、あれはだな…」
にや、と口端をあげる控え目の独特な笑い方をする政宗に見惚れる暇もなく、嫌味をたっぷり交えた政宗の言葉にこほんと咳払いをした。
「政宗、お前はどうなんだ」
「…そう露骨に話を逸してくれるな」
「政宗……」
「ふふ、冗談だ」
ゆっくりと眼を閉じて笑っった政宗の周りを桜吹雪が取り囲んだ。
そういえば初めて政宗を見た時も政宗を囲うように桜が舞っていた。
「政宗……」
「……慶次…?」
全くもって美しいものだとため息を漏らした。
それは政宗も感づいたようで、少し濡れた瞳でこちらをまっすぐに見つめている。
ゆっくりとお互いに顔を近付け合ってあと数寸で唇が重なりあう。
「ん………」
「っ、おあ!政宗!?」
すり、と唇が擦れ合い、そのまま深くなる接吻かと思いきやぱたりと政宗の頭が胸にしなだれかかってきた。
「ま、政宗…?」
そのままぴくりとも動かない政宗を取り敢えず抱きとめて、そろりと顔を覗いて見れば案の定。
その隻眼はゆうるりと閉じられて少しだけあいた口からは規則的な呼吸音が聞こえた。
「…………くそう」
今日はどうして政宗が俺を好きになったか聞こうと決心した日だった。
強いから、とか、物珍しい歌舞伎者だったから、とかだったら多少は萎えるが、もしももしも、少しは期待した返答だった場合、俺はもっとこやつに溺れる覚悟だったのだが。
「……なあ、政宗よ」
どうして、俺を、好きなの?
ぽそ、と政宗の耳元で言えなかった疑問を呟いた。
政宗はくすぐったさからか身をよじるだけだった。
「……まあ、起きてから聞いてみればいいな」
不安定だった体制を立て直し、政宗を抱き抱えなおして背中に回した腕にぎゅ、と力を込めた。
「酒と桜と美人な恋人と、悪くないのう!」
そしてこの幸せな一刻を楽しもうと勢いよく酒を煽い一人豪快に笑った慶次。よほど幸せなのか顔がにやけている。
その声の大きさからか目を覚ました政宗に五月蠅いと叩かれるのはまた別の話だったりそうじゃなかったり。
初花慶話!!
取り敢えず掴み書いておこうと思ったので特に深く考えずに書いちゃいました。
桜と政宗様はお美しいってことと慶政はすはすってことだけ知っていただければ^^