最近、政宗に三成に続くお気に入りが出来たらしい。

我らが恋人伊達政宗は、自分を愛している馬鹿な二人の男に挟まれて生きている。
一人は冷ややかな外見とは裏腹に思い立ったら即行動、脇目もふらずに猛アタック。感情は顔に行動に全てに出るので案外扱いやすい純情派石田三成。
もう一人は、言わずもながこのワシ、徳川家康である。
政宗は、それはもうワシが本当に愛されているのか不安になるくらい、三成をいたくお気に入りなわけである。

いつもはワシなどそっちのけで三成三成と名を呼び首に抱き付きキスをし、真っ赤になるあいつをからかっては楽しんでいるのだが、今日は違った。もちろん (もちろんというのも悲しいものだが)、ワシが構われているわけでもない。
ワシも三成も、傍観している立場なのである。



「幸村」

「はい、政宗殿」

「はは、ゆき可愛い」



いやお前のほうが可愛いから。などとはさすがに言わなかったけれど。
笑みを浮かべる自分の頬がひくひくと引きつるのが分かる。だが、ワシなどまだいい方だ。三成は口から音が漏れるほど歯ぎしりをしている。
ちらりと横目で伺えばなんとなく紫色というかどす黒い闇色のオーラのような正気っぽいものが三成の周りを出たり入ったりグルグルしていた。しかし三成の体力は回復するどころか少しずつ減少していっている気がする。というか、歯ぎしりしすぎて歯の体積が減少しそうだ。



「政宗殿、くすぐったいでござるよ」

「んー、可愛い。大好き!」



ガギッ、と隣りで甲高い音が鳴った。あぁ三成、お前今ぜったい歯取れただろ。



「さぁなだっゆきむらァアアアア!」



幸いにも歯は取れなかったようだが、その代わりに三成のなかで他の何かが取れたらしい。というか、キレたらしい。
先程から政宗に撫でられている男に刹那の速さで突っ込んでいった。



「ななっ、なんでござるか石田殿!」

「三成?」



真田幸村と呼ばれた男の首根っこを三成がつかみ引き剥がすと、不満そうに口を尖らせる我らが女王様は、未だ幸村に手を伸ばしている。



「三成、邪魔するなよ」

「なっ、貴様ぁ!いい加減自分に向けられる好意に過敏になれ!」

「An?」



三成の言う通り、政宗は大概自分に向けられる好意というものに鈍感だった。
ワシと三成の他にも、政宗に惚れているものは両手両足の指で数えても足りないほどいる。
政宗のお気に入りのこの男も例外ではなく、どうも政宗に惚れているようだった。さっきから、政宗に名を呼ばれる度に大丈夫かコイツというほどデレッデレに破顔しているのだ。
二年にして剣道部のエースと呼ばれる政宗と、居合いの達人の三成。この二人と互角の試合をやってのけたのが、この男、真田幸村らしい。
もはや高校剣道では負けなしだった政宗から見事一本とってみせ(さすがにギリギリだったらしいが)、その後も凌ぎを削りあっていると、三成から聞いた。
なんの因果があってかは知らないが、そんな真田を政宗は気に入り、真田は政宗に惚れてしまったというわけだ。



「いいから、幸村を返せ!」

「こんな下衆、貴様に近付けたら何をするか分かったもんじゃない!」

「なっ…いくら石田殿といえど、聞き捨てなりませぬ!」



ぎゃあぎゃあと多々の言葉を発するこの三人は見ていて楽しいが、政宗が真田の名前を呼ぶ度に三成の眼が釣り上がってきている。
そんな三成の様子に個人の理由で必死になっている二人が気付くはずもなく、そして三成が政宗に何か出来るわけもなく、いつの間にか真田の顔面をギリギリと掴んでいた。



「三成、マジで幸村返せ」

「駄目だ。こいつは貴様にどんな危害を加えるか分からん。私は貴様のためを思って言ってるんだ」

「危害など加えたりはいたしまぁいだだだだだ!!」



未だ自分を押し退けて真田に手を伸ばそうとしている政宗の頬を優しく撫でながら慈しむような視線を送っている三成は、反対側で手に青筋が浮かぶほど真田の顔を掴んでいるのだからすごいと思う。(三成ってあんなに器用だったんだ)



「……三成。」

「政宗…?」

「三成なんかきらいだ。」



ズドン、とどこかに石というか大岩が落ちた音がした。どこかに、というよりは三成の頭に、のほうがより正確であるが。

まぁ、今なら三成の頭に大岩が落ちようが雷が落ちようがなんら不思議ではなかった。
政宗が、まぎれもないあの政宗が、三成を初めて拒否したのだ。



「ま、まさむ、」

「うるさい。いいから黙って幸村を俺に寄越しな。You see?」

「な、な、な…」



とりあえず、顔面蒼白とでも言っておこうか。今の三成を形容する熟語はそれしかない。
もともと不健康に白い肌だが、それに輪をかけて白い。もはや青い。



「幸村、大丈夫か?」

「はい。ご心配痛み入り申す」



半ば放心状態で餌をねだる金魚のように口をはくはくする三成は、はたから見ればいたく滑稽で、ワシから見ればたいそう可哀相だった。
しかしそんな三成なんかそっちのけでまた政宗に頭を撫でられた真田に、ワシもちょっとキレそうになり、注意というか警告を促そうとしたとき、



「だいたい、犬がご主人に危害なんて加えるわけねぇよなァ?」

「………ん?」

「………は?」



犬?
だれが?だれの、犬?



「幸村が、俺の、犬」

「そうでござる」



どうやら我らが政宗は、真田幸村という男を、男としてではなく動物として、気に入っていたようだった。
しかも、両者公認の。



「あー………そう、ですか」

「………フン…」



今日も政宗は、女王様全開でワシらを振り回してくれたようでした。



「三成ぃー」

「ばっ、な、な、政宗!?」

「ばななってなんだァ?」



余談だが、政宗は次の日既に真田に飽きたようで、三成弄りに戻っていた。もちろん、もちろん構われるのはワシではない。
ちなみに真田と言えば、政宗にコーラを買わされに行っている。少し可哀相だ。



「なんだよ家康。おまえもしてほしいのかァ?」

「っ、な……?」

「ぃいえやすゥウウウウ!!!」



しかし不意打ちで女王様のキスをいただいたワシは、真田への少しの同情などすぐに忘れて、三成に殺されそうになるまで政宗をぎゅうぎゅう抱きしめているのであった。





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