玄冬×花白




雪が花に見えた。白い、花。自分をそんな風に言ってくれるのは、世界で彼一人。
凍える寒さの中に、やっとの思いで見つけた世界は、僕の日だまりじゃなくって残酷な未来だ。神様なんて居やしないんだから。




「玄冬、僕にはできないんだ」


鋭く冷たい剣。降ってきた白い花びらが柄に当たって溶ける。そんな姿を見下ろして、なんて馬鹿らしい現実を受け入れないといけないのかと、ふと感情の制御が効かなくなりそうな感覚に陥った。


「花白、お前は逃げろ」
「何いってんの!できるわけないじゃん!玄冬を置いて逃げる?なにいってんのさ………」


ブンブンと頭を横に振り、髪の毛を振り乱す。右手に持った剣が、思った以上に重量があって捨てたくなった。
追っ手は背後に迫っているのは薄々気がついている。下手をすれば包囲されているだろう。
彩の国から離れたはずなのに。結局はあの人から僕は逃げられなかった。


「もう、限界だろ」
「っ!…………やだ……こんなところで逃げたくないっ!僕は世界を捨てでも玄冬とっ――」
「花白」


あぁ。限界か。こんな山奥で限界を迎えるのか。
また、逃げられないんだ。玄冬と一緒に居たいだけなのにね、あはははは。滑稽すぎて笑っちゃうよ。
真っ白に地面が染まり、木たちも雪化粧して。
膝を付いたらズボンから冷たい雪が染み込んで来る。だけど感覚が麻痺してるのか、あんまり分からずにそのまま目の前の彼が止まって振り返るのを待った。


「ねぇ玄冬。救世主が先に死んだらどうなるの?」
「玄冬が生き残るんだから、世界が終わるだろ」
「じゃあ……。僕が死ねば世界も終わるんだ。僕にはできないんだ、玄冬を殺すなんてこと」


落ちた剣はまるで水晶の様に透明で。柄を持てば冷えた温もりが、あまりにもリアルだった。


「花白……花白っ!!」


腹部に刺すと、綺麗に赤が飛び出した。真っ白なキャンパスに赤いペンキを落とすように。
綺麗だなぁって思う。きっとこんな運命さえも、あの人が握ってるに違いない。いつでも僕は、あの人に縛られることが約束されているから。

ドクドク。玄冬が慌てて駆け寄ってきてくれているのに、もう嬉しいのかよく分からない。
いや、きっと寂しいんだ。それから妬ましい。こんなせかいでも、少しでも玄冬と多く……。あぁ何を言っているんだ。こんなことをしたのは僕なのに。


「くろ……と。またね」
「…ろ……花白!!」
「またね、また…美しい世界で会おうね」


だってそうなんだろう。世界は回るんだろ。悲劇はまたやってくるんだ。


「嫌だっ……花白っ!」


そう言いながら僕の殆ど動かない手に無理矢理剣を握らせ、自分の心臓に先を刺した。


なにを、しているの?


君の背中から、僕の剣が突き抜けているよ。赤い液体が、君の胸から溢れ出ているよ。これじゃあ、また、この箱庭のシステムが回ってしまうじゃないか。


途切れる意識の間際、君は僕を強く抱きしめてくれた。雪のせいで感覚が麻痺していて温もりなんてわからないけど。でも、君の暖かい吐息が耳を擽る。
ぼろぼろと溢れ出る涙を赤く染めながら、君は小さく呟いた。


「また、こんど」って。


それは、今度また玄冬が生まれて、救世主が生まれるってことなのかな。


玄冬、玄冬。

また、冬がきたね。

白い花が、咲くね。

玄冬、玄冬。

僕は、君を――。





そして冬は




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