正直者は嘘をつけない




グロ鬱ですいません展開。



 愛しているって言葉が、最近とても軽く感じるようになった。口から出てくるそんな雲みたいに軽い言葉が、憎らしくてしょうがなくなった。そうやって考えている自分もまた、気持ちがワルイ。
 蛇口の隙間から小さな水の雫が垂れて、洗面所の狭い空間に響く。鏡に映る自分は不細工という言葉がぴったりで、真っ赤に腫れた目を、こすれば擦るほど増していく。

 どんなに吐いても、身体の中にあるモヤモヤは取れなかった。それでも吐きだしたくて口から出すけれど、そこには黄色い胃液しか残らない。
 最近疲れているんじゃない、って彼に言われて、初めて自分が疲れていることに気が付いた。身体の中も、外も、自分が思っているよりも細い。

「どうせ私が……。」

 怖い。どんなに私が世界を救おうとしても、どんなに人を守っても、終焉なんていうシナリオからは逃れられないんじゃないかとふと思ってしまった。
 結局何も助けられなくて、何も変わらない。どんなに頑張ってもアレン君みたいに運命から背くこともできない。川のように流れている自分を見ているだけ。
勇気を出せない自分が、気持ちワルイ。
 
 一定に落ちる水の雫が、まるで私のように見えてとても気分が悪くなる。どうしても、どうしても変えられないんだろうか。
 いつでも自分は足手まといで。不足しているものを愛なんてものに求めてしまった。受け取る愛も、捧げる愛も、全部一緒だって思っていた。
 けれど違う。私のしていることはただの欲。愛欲。性欲。理性にしたがった、ただの野性的本能。



「ラビ」
「うん?」

 小さく開いていた彼の口に、自分の手を這わせる。歯にあたり、すっとその並びに沿って.触っていく。
 そっと掛かる彼の息に私はとてつもない安心感を抱き、下唇を噛んだ。

「どうしたの」
「怖……くて」

 自分がちっぽけに思えた。
 彼とどんなに身体を重ねても、満たされるのは自分の欲ばかり。どんなに吐いても取れきれないモヤモヤが、どんどん増えていった。苦しくて、冷たい感情。またあの洗面所に向かっていくのだろう。私はまたあの場所で吐くのだろう。

 生きているのが、急に辛くなった。
 私たちエクソシストがどういう立場でいなければいけないのかも分かっているつもりだったし、こういう気持ちを持っていること自体が伯爵に狙われてしまうことだって。
 とっくに分かっている。分かっているから、嫌なんだ。

「ごめんなさい」

 近くにあった机の上から剃刀を取り出し、思い切り手首を傷つけた。何度も、何度も。赤い液体が滝のように自分の手首から漏れ出してくる。一度だったらまだ雫程度だったのかもなんて、今さら思うけど。

「何やって……――」

 君は真っ青になった顔を向ける暇も無く、枕のカバーを引きちぎって手首に巻いた。
 真っ白だった枕カバーもすぐに真っ赤になる。何重にも巻いて、やっと止まった頃を見計らって彼は深いため息を吐いた。

「辛いなら言うって約束だろ」
「そんなの聞いてない」

 苦しいよって言ってみる。馬鹿じゃないのかって返された。そう言いながら彼は私を強く抱きしめてくれた。何分か前に抱きしめてくれた時よりずっと強かった。苦しいって言っているのに、いつまでも彼は抱きしめてくる。言葉は、××。

 ねぇ、ラビ。
 愛ってなんだろうね。生きてるってなんだろうね。私には、分からないよ。

「ごめんなさい。もっと、前向きにならないといけないのに」
「もう、喋らなくていいから」
「もっと、もっと私が強かったらよかったのに」

 もっと私が強かったら、君に迷惑も掛けないでいられたのにね。
 きっといつかは分かるのかもしれない。まだ私が子供だからかもしれない。不安で一杯になるこの心が、少しは広くなって、幸せなんてものが収まるスペースができるのかもしれない。
 お願いだからそれまでは、私と一緒に、この感情を共有してくれるかな。ごめんなさいは、もう、欲しくないかな。なんて。

 嘘を付ければよかったけど、それも、君にはできないや。
 それって愛してるから?まぁ、いいや。今は彼に抱きしめられて幸せって思えるもの。



2012/01/29









グロいし鬱展開だし。良いことない。


[モドル]


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