彼女は思慮する。
「また今度ね」と言って、彼はもう二度と姿を表さなかった。そんなことずっとずっと前から分かっていた現実なのに、頭では理解していても、納得しきれない自分が居る。
ブックマンでしょう。ブックマンだからしょうがないんでしょう。5年前のあの時は、たまたま「こちら側」に居ただけなのに。また違うログ地に行っただけ。そうやって考えているうちにどんどん胃が痛くなる。
彼にとって自分はなんだったんだろうか、とか。私は何が出来たんだろうか、とか。そんな後悔ばかりが積もっていった。結局自分は彼に依存をしていた。いつか居なくなるというのに、居なくならなければいいと独りよがりをしていたに過ぎない。
5年前と変わったことといえば、少しだけ教団内が落ち着いて任務自体も少し減ったくらいだろうか。兄さんの仕事量が減ったり、リーバー班長の睡眠時間が増えたりと、いいこともある反面私たちエクソシストたちの任務の量が減って教団に滞在している人が多くなった。そのことによりジェリーさんは大忙しだけど、本望だと言っていたっけ。
「リナリー、ご飯食べに行きませんか?」
「えぇ、いいわよ」
アレン君は身長も髪の毛も伸びて、男性らしくなった。声も前より低くなって、性格も前より少しだけ冷静になった気がする。
そうやって人間間の成長を見ながら、今日も私は図書室で本を読み漁る。
読んでいた本を閉じ、もとあった場所に戻して押し込む。どうやらここの図書室も本を置く許容量がギリギリのようである。無理やり捩じ込んで、ドア前で待っていたアレン君の元に小走りして行く。
「今日は何食べましょうか。僕はナポリタンと、カレーライス、たこ焼き、ピザとあぁ、お肉も沢山食べたいので、骨付き肉とカルビ、ハンバーグと食後にみたらし団子50本と……」
指折り数えていき、指が追いつかなくなったところでふと私は気がつく。顔を覗いてみると、無理やり作った相双笑いがいつの間にか完成。それなりに長く居るのだから、それくらいバレバレだというのに。
「アレン君、なんか今日少ないのね」
「あれ、やっぱりそうですかね。最近あんまり食欲なくって。正直最近任務も少ないですし、イノセンス開放する機会少なくなったので」
「……。それって良いことなのかな」
「そりゃそうですよ、と、言いたいですがどうでしょうかね」
ふと目線を反らし、ずっと遠くの階段を見る。黒くてサビだらけの階段。上に行くにつれて闇の中にのまれていく。
任務が少なくなることが良いことかどうか。それは誰もが疑問に思うことだった。平和であることに違いはない。それが幸せなのだ。関係の無い人間が巻き込まれないで済むということ。それがどんなに幸福であろうか。世界中の人間が幸せだと感じる時間がほんの少しでも増えてくれたことは、教団から以前に、人間として嬉しいばかりなのに。
どうして少しだけ寂しいと感じるのだろうか。それはアレン君も少なからず感じていることだろうけど。
「ごめんなさいアレン君、先に行っていてもらってもいいかな」
「はい。大丈夫ですよ」
そうやって空気を読んでくれるコトはとても嬉しく感じる。ペコリと頭を下げ、小走りで目の前にあった階段を登っていく。
最後まで上がり終わって、ふと後ろを振り向く。アレン君はもう食堂へ向かっただろうか。ふとため息を吐いて、その場で座り込んだ。
「また今度」と言った言葉が頭から消えない。消えてくれない。毎日のように繰り返される言葉が、彼への依存心を掻き立てる。どうしてだと、脳内麻薬。
「嘘つき」
また今度とか言いながら帰ってこない。もう会えないって分かっている。でもどうして。どうしてこんなに君が忘れられないんだろうね。
もう5年も経って、少しだけ忘れられたのに。街を歩いていると貴方にそっくりな人を見かける。でも別人だってわかってる。
本当はどこかで出会っているのかな。
その大きな背中はもっと大きくなっているのかな。その赤毛は伸びてしまったのかな。少しは大人になったのかな。アレン君の成長を見ると、貴方もきっと少し大きくなったんじゃないかなって思ったりして。
考えるだけが至福。あなたの命について考えたりしたら病気になりそうなくらい胃を痛くする。だから苦し紛れに図書室に行って本を読んでいた。少しでもあたなに触れたくて。また今度、会えたら話そうね。
貴方が居なかった間に沢山の人と過ごした日々。楽しかったことも辛かったことも。
貴方が居なかった日々がどれだけ寂しかったのか、喧嘩を申し込んでやろう。5年間の間に私だって強くなったんだから。今度こそ負けないんだから。
じゃあ、それまで。
「ただいま、リナリー」
そんな声がする。
彼女は
思慮する。
2012/01/27
お久しぶりです。5年後のリナリーのお話でした。もし携帯電話で見にくい等あればお気軽にご連絡ください。
[モドル]