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共に生きていくことにした。


それはまるで夫婦の契りのように神聖で、子供の幼な約束のように純粋で、薄幸の虚実のように脆弱なものだった。









「覚えてるかなぁ…」


「白は覚えてるよっ!」


「白が覚えてても仕方ないでしょ?」


「そんなことないもんっ!」


「はいはい」




隣でかわいらしく頬を膨らませる幼なじみとは対照的な厳つい筋肉質のごっつい幼なじみは、やれ任務だ書類だ、と言って私の誘いには全く付き合ってくれない。

嘘泣きにはすぐに騙されるくせに、いざ涙を浮かべてみせると「勘弁してくれ」と眉を下げて困惑するのでこっちも強くは言えないのだ。

あの顔は狡い。

拳西が私の泣き顔に弱いように、私も拳西の困惑顔には弱いのだ。










「今にも星が落っこちそう!」


「綺麗だねぇ……」




拳西と白を食事に誘った道すがら、あまりの星空の美しさに思わず目的を変更して、天体観測のお誘いをしたのに、拳西ったら「コレ持ってけ」と、私に白を押しやり、文句を言う暇も与えることなくさっさと扉を閉めてしまった。

閉じられる瞬間にちらりと見えた扉の向こうには山積みの書類。おまけに疲れ果てた表情に、下がった肩。

隣で扉を叩きながら文句を言う白を横目に見つつ、私は何も言うことができなかった。







「なんで、あんな忙しそうなの」


「白しらなーい」


「私もしらなーい」





白のように頬を膨らましたって仕方がない。

膨らませた頬は潰れ、ため息へと変化した。














「…………"ずっといっしょ"って言ったのに」








不意に隣から漏れたか細い声に視線を向けると、白がしょんぼりと俯いていた。

私がため息なんか吐いてしまったからだろうか。

誰よりも私の変化に敏感なこの優しい子は、私のために落ち込んでくれるのだ。


思わず口許に笑みを浮かべながら、私は白の頭を抱え込むように抱きしめた。





「わっ!」


「白は可愛いなぁっもうっ!」


「なまえたん?」


「かわいこちゃんめぇー!」


「うひゃっ」





脇を擽ると、変な声を出した。

二人同時に吹き出し、二人同時に爆笑する。



隣にある、あったかな体温だけで落ち込んでいた気分なんて嘘みたいにどこかへ行ってしまったようだった。








「"ずっといっしょ"かぁ…」


「なまえたん?」


「ねぇ、白」


「んー?」


「私はたぶん、ずっと一緒にはいられないってわかったから、あんな約束しちゃったのよ」


「んー…」


「"ずっといっしょにいて、えいえんに"」


「…………ねぇ、なまえたん」


「ん?」


「"えいえん"て、なに?」







白の視線をたどると、満天の星空にたどり着いた。


私たちの永遠とは、いったいなんだったのだろうか。

死ぬまでが永遠だったのか。

それとも、この満天の星空が地面に落っこちてくるまでが永遠だったのか。

あのときの私たちは、なにを永遠にしたかったのか。





「そうだねぇ…、何だったんだろう?」







あの時は、幼いままに拳西と白と離れることが嫌だった。

いいや、違うのかもしれない。

嫌だ、というより怖かった。

それは今まで感じたことがない得体の知れない恐怖だったのだ。



訳もわからないまま、がむしゃらに突き出した小指は、あたたかく大きな逞しい小指に搦め捕られ、不確かな契りを成立させた。











ずっといっしょにいて

えいえんに














小指の主は、いったいどんな気持ちで願いを聞いていたのだろうか。







ふと星空から自分の小指へと視線を移す。

私の小指はあの時とはもう違う。

随分大きくなったことだし、暖かさなんて微塵も感じられない。


とても悲しい小指になっていた。






「私はね、」


「うん」


「"永遠"ほど脆いものはないと思うなぁ」


「脆いの?」


「そう脆いの。つっつくとね、ガッシャーンって壊れちゃうの。」




言いながら、白の頬っぺたをつっつくと、へへっと擽ったそうに笑った。






「でもね、」


「うん」


「"永遠"ほど強いものなんてないわ」


「えー?」






そっと、白の小指に私の小指を絡めてみた。


繋がった小指は、冷たさなんて感じられない。








「脆いのに強いの?」



「脆いのに強いの」








首を傾げる白に、私は目を細めて頷いた。






悲しい小指は、脆かったけど、


とても強かった。












「あ、拳西っ!」





繋がった小指が離れたかと思うと、私の頭には何か白いものが降ってきた。





「物好きどもが、んなクソ寒ィとこでなにやってんだよ」


「天体観測ーっ!」


「ただ星見てるだけだろ」


「天体観測ー?」


「見てるだけじゃ天体観測とは言わねぇよ」





もぞもぞと降ってきた白い何かから脱出し、上を見上げてみると、そこには満天の星空ではなく、しかめっつらの拳西の顔があった。





「拳西…」


「あ?」


「仕事は?」


「………着とけ」



全く噛み合っていない会話に何か言おうとする暇も与えず、私の身体は再び白い何かにすっぽりと覆われた。




「拳西寒くないの?」


「知るか」




隊首羽織りを脱いだ拳西は、肌がもろに露出している。無駄に筋肉がついているから、ちっとも寒そうではなかったため、ありがたく借りることにした。




「拳西の匂いがするー」


「は?」


「あせくさいー」


「てめぇ、貸さねぇぞ」




眉を寄せた拳西に思わず笑って返すと、呆れたように私の隣に腰掛けた。







「ねぇ、なまえたん」



「ん?」



「眠くなってきたー」



「あらまー」





目をごしごしと擦った白は、一つふわぁと大きな欠伸をすると、こっくりこっくりと首を動かしながら、私の肩に頭を乗せた。




「白?」


「………。」




やがて聞こえてきた寝息に、笑みがこぼれる。


白の頭に手をのばし、ゆっくりと髪を梳いた。


昔と変わらずサラサラな髪は、指に引っ掛かることなくサラサラと流れていく。




そして、不意に膝に感じた重み。








「お、重い……」








頭を乗せた本人は、ケロッとした顔で目を閉じている。



白と同じように、伸ばされた前髪に手をのばすとぱちりと目を開けた。






「さわんな」


「なんで?」


「………」


「…理由ないの?」




無理矢理に膝枕をさせておいて触らせてくれないなんてあんまりだ、と唇を尖らせると、めんどくさそうな顔をしてきた。






「その顔、癖になってない?」


「……疲れた」


「うん、お疲れ様」






そっと前髪に触れると、今度は気持ちよさそうに目を閉じた。












「窓開けてっと、お前らの会話が全部聞こえんだよ」



「うん、たぶん聞こえてるなって思ってた」



「九番隊隊舎の屋根で天体観測してんのはお前らくらいだろ」



「うん、今は拳西も仲間入りしてるけどね」



「俺は天体観測してねぇよ」


「だったら私たちだってやってないじゃん」








うっすらと拳西が目を開いた。



それに気づき、顔を寄せて「ん?」と首を傾げると、拳西は蚊の鳴くような声で何かを囁いた。

















「あの時、俺は、死ぬまで一緒にいれりゃいいと思った。」













前髪にのばしていた手が、優しくてあたたかく大きな逞しい小指に搦め捕られた。


小指はあの時と変わることなくあたたかかった。








「お前は違うか?」


「……私はね、」


「………」


「………"永遠に"一緒にいたかったよ」


「……そうか」








再び目を閉じた拳西。


小指は繋がったまま、いつまでもあたたかった。




膝に感じた温もりと、

肩に感じる優しさが、


ただ、"永遠に"続きますように。








似たような影を並べ、

落っこちそうな満天の星空に願った。














To.ユーリ様 【10000hit企画】