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「すごい人ですね」

「そやな」

「なーなー、林檎飴買ったってー!」

「甘いものばかり食べてると虫歯になるよ」

「なんやケチやな」

「ケチやな」

「ダブル関西弁!?」




繋いだ手の平はとても小さい。真ん中に挟まれた少年は張り付けたような無垢な笑顔を浮かべ、反対側のごつい大きな手の平をしっかりと握っていた。

周りにはキラキラと光る提灯に、がやがやうるさい露店と、楽しく笑う客の海。


はぐれないよう、しっかりと握る手の平に熱が篭る。





「あ、あれ見て!」


「何?」


「あれやあれっ!」


「どれよ」




私の手を離し、必死に向こうを指差すギン。ちょっと、待て。なんで平子隊長じゃなくて私の手を離すのよ。



「ギン!はぐれるからちゃんと手を…」


「あれ買ったってや!」


「だからあれって…」


「お面やっ!お面っ!」




ギンが指差す方向を目を細め見遣ると、何やら色とりどりのものが掛かっているのが見えた。

眠そうに閉じられた瞳でよくもまぁそんな遠くまで見えること。




「ギン、林檎飴かお面、どちらかにしなさい」


「なんでや!どっちも欲しい!」


「我が儘いわないの!」


「我が儘ちゃう!なぁ、ええやろ?」



ギンが私ではなく平子隊長を見上げる。隊長はお面屋をぼんやりと見つめていたらしく、突然話を振られ、ハッとしたようにギンを見た。

ギンは隊長の長い着物の羽織りをくいっくいっと引っ張って、まるで駄々をこねる子供のようにせがんでいる。


隊長は、「しゃーないなぁ」なんて言いながら、懐から小銭入れを取り出すと、ギンの手を掴み、その手にしっかりと袋を握らせた。





「一つだけやで?」





ギンに言い聞かせるように優しく囁くと、ギンは大きく頷き、勢いよく駆け出してしまった。






「…………甘すぎです。」


「なんや、お面くらいええやろ」


「お面なんて必要ないですよ」


「まあ、そう言わんと」





苦笑しながら隊長が手を差し出してきたので、私は躊躇いながらもその手を握った。






正直、面白くない。


久しぶりの非番で、しかも珍しく隊長と非番が重なって、しかもたまたまお祭りの日だったりして。隊長からお祭りに行こうと誘われた時は天にも昇る気分だったのに。待ち合わせ場所に現れたのは、普段見ることがない私服姿の隊長と、最近入隊した憎たらしい餓鬼だったのだから。なんでこんな日に私が子守をしなきゃいけないのよ。藍染副隊長はどこいったのよ。だいたいなんで当然のように私と隊長の間に入ってんの。あーもう、ムカつく!!





「意味わかんないっ!」


「カリカリせんと、綿飴買ったろか?」


「いりませんっ!」


「かき氷がええんか?」


「だからいらないです!」


「なら後で林檎飴買ったるわ」


「だーかーらーっ!」





全く噛み合わない会話。

隊長はククッと喉を鳴らして笑うけれど、私は頬を膨らまして怒ることしかできない。これじゃ私もギンとさして変わらない子供じゃないか。






「なぁ、これでええ?」




気づけばお面屋の前まで来ていた。


ギンが私たちに差し出したのは、真っ白な狐面。狐のような顔の上に狐面をかぶるつもりなのか、なんて皮肉は言わずに私は色違いの真っ赤な狐面を手に取った。




「こっちがいいんじゃない?」


「なして?」


「ギンの髪は銀色でしょ。白じゃ色が映えないわ。」


「………。」



ギンは私から真っ赤な狐面を受け取ると、二つを両手に持ち、キョロキョロ見比べた。






「二つ、買ってきい」





隣から聞こえた声に驚いて視線を向ける。

隊長は私の視線なんか気にも掛けずにギンの背中を優しく押した。「ええの?」と顔だけこちらに向けたギンに無言で頷く隊長。私は口を挟むことも出来ずに、ギンはさっさと行ってしまった。





「………やっぱり甘い」


「そんなことあらへんわ」





たくさん掛かったお面の一つを手に取り、裏のゴムをバチンと鳴らす隊長。

なかなか良い音がするもんだ。

私も適当にお面を一つ手にとってみた。

すると、不意に隊長が口を開いた。





「狐面はなあ、狐の忘れ物なんや」


「狐の忘れ物?」




隊長の手の中で、再びゴムがバチンと鳴る。




「昔なあ、可哀相な狐がおったんや」

















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