「お前、どっから来た?」
「………さあ?」
気づいたら、そいつはいた。
パピーが星になったあの日から、まだ数日も経ってはいなかった。俺はあれから、笑うことも泣くことも、上手くできなかった。やり方を忘れてしまった。今までどうやっていたのか、わからなくなってしまったのだ。
そんな俺を、親父以外はまるで腫れ物のように扱った。仲間たちは、既に日常へと帰っていた。
戻れないのは俺だけ。非日常に佇んでいるのは俺だけだ。
今もこうして、何もせずに船に腰掛け、ぼーっと海を眺めていた。本当は、甲板掃除を任されモップを持たされていたのだが。
モップは地面に寝っ転び、いつもはまくし立てるマルコは、見張り台から複雑な顔してこっちを見ていた。
もう、どうにでもなっちまえ。
深いため息と共に俯いた顔を上げた。
すると、突然隣に気配を感じた気がして。
バッと顔を横に向けると、
そこには謎の女の子が座っていた。
「名前は」
「なんでしょー」
「歳は」
「わかんなーい」
「親は」
「んんー、おやはねー」
ぴょんっと船の端っこから飛び降りた少女は、ある人が鎮座する場所を指差して叫んだ。
「おやじーっ!!!」
なあなあなあ。
嘘だと言ってくれよ。
まだ俺に夢を見させるっていうのか。
このクリーム色のふわふわの髪の毛も、パッチリくりくりの瞳も、ぴょんぴょん跳ねる姿も。
何も変わっていないじゃないか。
「………パピー?」
「んんん」
「……パピー」
「んっ」
「パピー」
「んっ!」
腕を広げると、少女はぴょんっと俺の胸に飛び込んだ。
「エース!」
「パピー…」
「エース!!」
「……っ…」
「ただいま、エース!!!」
「…っ…パピー…!」
ああ、このお日様の匂いは。
間違いなく、パピーのものだ。
「帰ってきたのか…?」
「パピー、かえってきた!」
「…な、んで?」
「パピー、つたえる!エース、みんな、つたえる!」
「な、にを……」
「パピー、しりたい!エース、パピーはしりたいの!」
無邪気に笑ったかのように見えたパピーは、少し目尻を下げ困ったように笑った。
「エース、パピーはね、パピーはね、」
曖
昧
に
始
ま
る
月
曜
日どうにでもなっちまえ、なんて言ったからどうにかなっちまったのか?
腕の中に収まった温もりは、あの頃となんの変わりはなく、こうやって鼓動を刻み、息をしていた。
帰ってきたんだ。
何度も願った。
俺の願いが叶った。
嬉しい。
嬉しいはず、なのに。
「………エース、」
「…っ……」
「…ごめんね、エース」
「…っ…パピーっ……」
パピーの子供の舌が、俺の頬をペロリと舐めた。
そんな仕種まで一緒だなんて、本当嫌になる。
「ごめんね、エース。泣かないで。」
なんで、俺は泣いてんだ?
帰ってきた君を見た心臓は
激しく熱を波打った後
どうしようもない劇薬に
ドクリドクリと犯された
帰ってきてくれた君を
帰らせたのは、………、
間違いなく俺だった
"物語の結末"は
安らかに眠った姫を
乱暴に起こした馬鹿な王子の独壇場
Episode by
Ace.