「たいちょーっ、わたしの唇ってぽってりしてますか?」
「ああ?」
「あひる口ですか?」
「なんやねん急に……、ちゅうか何勤務中に雑誌読んどんねん!」
「何勤務中にココア飲みよんねん!」
俺の口調を真似した部下は、雑誌をソファーで読みながら、顔だけぐりんとこちらに向けていた。
なんだかんだで二の句が次げなかった俺は、部下をじとっと睨みつけた。
「あひる口、ぽってりでグロスを塗っててらてら輝く唇。」
「せやから、何やそれは、」
「キスしたくなる唇の条件」
「………。」
別の意味で二の句が次げなくなった俺を、部下は嘲笑うかのように微笑んだ。
「で、どうですか?」
「何がや」
「私の、く・ち・び・る」
「阿呆」
ゴホンッと、俺が咳ばらいするのと、彼女がガタンッ立ち上がるのとは同時であった。
「たいちょの唇は、私の好みですよ。だから、キスしていいですか。」
そう微笑んだ、部下の顔は引き攣っていた。
(ほんとはわかってるよ)
(あなたはわたしがすきじゃない)
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