「なんや、お前風邪引いとんのか?」
「ふぇ?」
「頬赤いで」
「あー……、はい、そうですね……」
廊下をすれ違う瞬間。
いつもなら意味もなくじゃれついてくる猫のような部下は、なんだかぼんやりとして心持ち足元が覚束ないようだった。
「風邪じゃ、ない、ですよ…」
「嘘こけ、風邪やろ」
「風邪じゃ、…っ」
「っ…おい」
柱に手をついた部下の肩を慌てて抱いた俺を、部下が見上げるように顔を上げた。
「たい、ちょ…」
「今日はええから、はよ家帰って糞して寝ろや」
「……私は、糞しません」
「嘘こけ」
赤く林檎のようになっている頬をぐいっと引っ張ると、不機嫌そうに眉を寄せた。
「なにふんれふか」
「何ていいよるかわからんわ」
「ひほいっ!!」
部下は仕返ししようと手を伸ばしてくるが、熱のせいなのかすぐにその手は下がってしまった。
「……うっ…」
「………ほら、はよ帰りや」
「…そうします、」
ため息をついた部下をそっと離すと、部下は視線を下に向けてぼそりと呟いた。
「残念です、たいちょと居られる時間が減りました」
ふらふらと歩き出した部下の背中を見つめながら、聞こえないように呟いた。
「ほんならはよう、仕返しできるように治さんかい」
(赤く熟れた林檎の頬)
(いろんな意味でお揃いに)
<< >>