だってそうやん。一緒に起きて、一緒に飯食って、一緒に散歩して、一緒に仕事して、一緒に眠るんや。
こんな幸せなことって他にあると思うんか?
心地よく陽の当たるソファーでお前にひざ枕をしてもらって眠った昼寝は、世界で一番貴重な時間やったって断言したってええわ。あんなに、暖かかったんは始めてやったんや。上から俺の目を覗き込んで、『真子の髪は太陽の色だね』っつって微笑む顔は、ほんまに優しくて、こんな幸せな気持ちになったんは始めてやった。
「どうしたの、震えたりして…」
「………震えとるのはお前やん」
今俺に伸ばされてとる手は、ほんま白うて、あぁこういうんを美白っていうんや、とか思いながら俺は優しくその手を掴んだ。
カタカタと小刻みに震えとるお前の手は、小そうて可愛くて愛しくて、離したくないと思ってしまうねん。
その震えは何から来るんや?
お前はほんまは怖いんか?
それとも、
泣きたいんのを耐えとるんか?
「もう、動かないんだって」
「…あぁ、聞いたで」
「………どうしてこんなことになっちゃったんだろねぇ」
「………」
ほんまに困ったように微笑むあいつを、綺麗やと思ってしまうんや。いや、綺麗なのは当たり前やねんけども。でも、やっぱなぁ、その姿は見るに堪えんほどに痛々しかった。
全身と言っていいほどに巻かれた包帯が、あいつの綺麗な肌を隠して、見える部分からは痛々しい傷が見えとる。
あいつが任務で失敗をした。
右の自由を失った。
「私、右利きなのよ?どうしよう」
「俺がお前の右手になったるわ」
「……もう立ち上がることもできないよ」
「俺がお前の足になったる」
「歩くこともできないよ」
「……今までみたいに、一緒に歩いてけばええやろ?」
お前のためやったら何やってできんねん。
お前のためやったら、その頬に流れとる涙を吸い取って笑顔にさせたることだってできるんや。
泣くなや、なんて言わへん。
むしろ泣いてくれたってや。
お前は泣き顔も綺麗やねんから。
「もう、真子を力いっぱい抱きしめることもできないよ?」
「そんなら、俺が力いっぱい抱きしめたればええやろ?」
何もいらへん。
ただ、お前がいてくれるだけでええねん。
お前は、隣にいてくれるだけで、知らず知らずんうちに、たくさんのものをくれるんや。
何もできへん。
そんなわけあらへんわ。
誰かを思って流す涙ほど、綺麗な優しさはないんやで。
きっと、
神様は嫉妬しているんだ
お前の流す綺麗な涙に
お前が誰かを想う優しさに
だから、見返りに自由を奪ったんや
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